研究課題/領域番号 |
63041063
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
黒田 吉益 信州大学, 理学部, 教授 (20015530)
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研究分担者 |
松尾 禎士 電気通信大学, 教授 (30015490)
山口 佳昭 信州大学, 理学部, 助教授 (50144689)
丸山 孝彦 秋田大学, 鉱山学部, 教授 (60006682)
蟹沢 聰史 東北大学, 教養部, 教授 (70005784)
山田 哲雄 信州大学, 理学部, 教授 (30020647)
PERSSON Lars Research Stuff of the Geological Survey of Sweden
LINDH Anders Associated Professor of the Department of Geology, Lund University, Sweden
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研究期間 (年度) |
1988 – 1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
10,100千円 (直接経費: 10,100千円)
1989年度: 2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
1988年度: 8,000千円 (直接経費: 8,000千円)
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キーワード | 大陸地殻 / 盾状地 / 島弧 / 花こう岩 / 水 / 水素同位体 / 化学組成 / 角閃石 / 黒雲母 / 日本列島 / バルチック盾状地 |
研究概要 |
大陸型の地殻は、日本列島のような島弧ー変動帯のものとバルチック盾状地のような安定大陸のものとに区別される。それらはいずれも大陸型であって、海洋地殻の場合と異なって花こう岩質岩石が大量に生成されている。これらの花こう岩質岩石が同じものであるのか、異なっているのかを明かにすることは、大陸の成因を考えるうえで重要なことになる。その識別の基準として、私達は花こう岩の構成鉱物である黒雲母、角閃石の化学組成とともに、そのOH基の水素のD/Hの分配、OHの量等を調べてきた。その結果、日本列島のような変動帯の花こう岩は、その形成の少なくとも後半ー末期にかけてかなりの量の水が存在している場所にあったことが明かにされてきた。その水は中生代末-新生代初期(1.2ー0.6億年前)の天水、海水の変質したものと推定されている。 昭和61年(1986年)度からのフィンランド地域のバルチック盾状地の花こう岩(ラパキビ型)類に引きつずき、昭和63年(1988年)度からスエ-デン地域のものを研究した。 バルチック盾状地は、21ー19億年前のスベコフェニアンの変動が次第におさまってきて盾状地となったものである。完全に盾状地になっていくのにはやはり数億年の時間がかかっている。このように同じ大陸の地殻でも日本列島ー変動帯とは歴史が異なっている。 このような長い歴史の中で生成されてきた花こう岩の年代は18.5〜16.0億年である。それらの代表的な花こう岩体をいくつか選んで、多数のサンプルについて黒雲母、角閃石の化学分析をし、OHのD/Hを測定した。 その結果、盾状地の花こう岩体中の黒雲母-角閃石ペアのδD(D/H)値は日本列島の花こう岩体と全く異なっていることが判明した。日本列島のものは黒雲母-角閃石のペアのX_<Fe>(Fe/(Fe+Mg))は、黒雲母が角閃石よりも0.05〜0.10ぐらい大きく、それらのδD値は水と雲母、角閃石との間のD/H分配率(実験で確かめられている)とよく一致する。ところが盾状地のものの黒雲母ー角閃石のペアのX_<Fe>値はほぼ同じであり、それらのD値は水との間の分配率に従っていないことが明かになった。そして、必ず角閃石のδD値が低く、黒雲母のそれが高い。その差は40%もあることが珍しくはない。また、黒雲母-角閃石のX値は盾状地のものは0.9〜0.5ぐらいであるが、日本列島のものは0.7〜0.25ぐらいである点も異なっている。 このことから、日本列島のような島弧の花こう岩は前述のように水の多い条件で形成されているが、盾状地のものは水がない条件で形成されたことが推定される。すなはち、盾状地の下部のマントルで形成された花こう岩質マグマは水を含んでいなくて、OHのみが含まれていた。それが上昇する過程で固結していくが、そのようにして生じた結晶(黒雲母、角閃石)は、水との間のD/Hの平衡関係をしめすのではなく、珪酸塩溶融体のOHとの平衡関係を示している。つまり盾状地は大陸地殻として広く、かつ剛塊となっており、島弧ー変動帯のように水を含んだ堆積物がなかったのであろう。かつ、変動が終わってしまって花こう岩形成に地殻中の水が関与することも少なかったのであろう。 このように見てくると、日本列島とバルチック盾状地の花こう岩の対比は非常に意味のあることがわかる。大陸型地殻が島弧的なものから、盾状地のような状態に変わっていったものであるということが、含水珪酸塩のX_<Fe>、δDから分かるとすれば、その他の地質学的、岩石学的、鉱物学的な特徴にもそれが反映しているはずである。この点で昭和62年(1987年)、平成元年(1989年)にフィンランド、スエ-デンで花こう岩類を調べている学者を招へいして、盾状地に慣れている彼らの目で日本の花こう岩類を見て討論が出来たことは有効であった。今後、そのような点を総合して結論を出したい。全地球の大陸地域にもそれがふえんできるとすれば、きわめて貴重な結果といえる。
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