研究課題/領域番号 |
63041094
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
立川 涼 愛媛大学, 農学部, 教授 (50036290)
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研究分担者 |
V.K Venugopa アンナマライ大学, 海洋生物学研究所, 教授
河野 公栄 愛媛大学, 農学部, 助手 (50116927)
田辺 信介 愛媛大学, 農学部, 助教授 (60116952)
川端 善一郎 愛媛大学, 農学部, 助教授 (80108456)
武岡 英隆 愛媛大学, 工学部, 助教授 (90116947)
VENUGOPALAN V.K. Professor, Centre of Advanced Study in Marine Biology, Annamalai University
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研究期間 (年度) |
1987 – 1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
8,000千円 (直接経費: 8,000千円)
1989年度: 3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1988年度: 5,000千円 (直接経費: 5,000千円)
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キーワード | 熱帯地域 / インド / 開発途上国 / 農薬 / 有機塩素化合物 / PCB / 重金属 / 環境汚染 |
研究概要 |
今日の環境問題は地球的規模で広がりを見せ、その実態は先進国から派生したものばかりでなく、開発途上国において顕在化している問題も少なくない。たとえば農薬や工業用材料など人工有機化合物の利用は北から南へ急速に拡大し、開発途上国の集中する熱帯地域は地球汚染の新しい発生源として注目されはじめている。高温多雨な熱帯は、温帯や寒帯地域に比べ大気や水経由での化学物質の流出が大きいが故に、そこでの無秩序な使用や廃棄は地球規模の汚染に大きな負荷をもたらす可能性がある。そこで本研究では、乾期と雨期の交代する南インドの水田地帯を対象域として、熱帯地域における農薬・重金属の環境動態(移動・集積・分解・生物濃縮)とゆくえについて調査研究を行ない、これまでに以下のような成果を得た。 1)南インドの水田地帯で採取した大気、水、土壌、生物試料からは、高濃度のHCH(BHC)およびDDTが検出され、インドでは今なお多量の有機塩素系農薬の使用が続いていることを確認できた。また河口域で採取した大気と水の残留濃度には季節変動が認められ、稲の開花時期に相当する9〜1月の雨期に高濃度分布が観察された。現在インドは世界最大のHCH使用国で、今後しばらくの間、農業用およびマラリア防除用としてのHCHの利用が続くものとみられている。南インドで得られた結果は、HCH汚染の地球規模での広がりの理解に、重要な知見を提示することができた。 2)大気、水、水田土壌に残留するHCHおよびDDTの濃度を使用当時の温帯域の(日本)のデ-タと比較したところ、南インドなど熱帯アジアの国々では、水田土壌の残留量が小さい反面、大気や水への移行割合の大きいことがわかった。また南インドでは、乾期と雨期の濃度差がきわめて大きいことや、モンモリロナイトが土壌中に多く含まれているため農薬の地下浸透はほとんどおこらないことなども明らかになった。さらに、大気ー水間におけるこの種の農薬の分配係数を求めたところ、理論値より小さい係数が得られ、その平衡状態は水側に偏っていることが判明した。こうした結果より、熱帯地域で利用された化学物質は、温帯に比べそこでの残留量は小さいが、大気や水経由での流出ははるかに大きいことものと結論された。とくに、水田に散布された農薬は、水経由の流出もばかにならないことが示唆された。 3)魚介類、鳥類、イルカ、ヒトなど分析に供したすべての生物試料から高濃度のHCHとDDTが検出され、インドでこの種の農薬の使用が続いていることをあらためて裏付ける結果が得られた。同時に、低濃度ではあるがPCBの残留も認められ、この物質による汚染が開発途上国にまで広がっていることを明らかにすることができた。またインド在住者の母乳を分析したところ、都市、漁村在住者に比べ農村在住者とくに菜食偏重者に高濃度のHCH残留が認められた。こうした残留のパタ-ンはヒトへのHCHの暴露ル-トが主として植物性食品であることを示しており、乳製品や魚介類等動物性食品が主な経路であった先進国の暴露様式と明らかに異なることがわかった。さらに既存の文献を整理し、本研究の結果を含めて母乳汚染の国際比較を試みたところ、DDTの汚染は熱帯域の開発途上国および東欧諸国で顕在化しているものの世界中に広がっているのに対し、HCHの汚染はインドや中国など特定の国に集中していることがわかった。一方工業用材料として利用されたPCBは、先進工業国で汚染が進んでおり、開発途上国の残留レベルは低いことも明らかとなった。 本学術調査は当初予定したとうり順調に進み、熱帯域における化学物質の動態、開発途上国固有な環境汚染の状況さらには地球規模の汚染に果たす熱帯地域の役割などについて理解を深め、化学物質の安全な利用や社会システム開発のための基礎試料を提示することができた。また日本への招へいや現地における研究者との交流を通して、専門家の育成や環境モニタリングのための国際的なネットワ-ク作りに貢献できた。
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