研究課題/領域番号 |
63041120
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研究種目 |
海外学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
末尾 至行 関西大学, 文学部, 教授 (80067462)
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研究分担者 |
山地 征典 エォトヴェシ, ロラーンド大学・文学部, 助教授
藤本 勝次 関西大学, 文学部, 教授 (60067387)
中島 茂 賢明女子学院短期大学, 講師 (70188952)
中村 泰三 大阪市立大学, 文学部, 教授 (10046980)
角山 幸洋 関西大学, 経済学部, 教授 (40071229)
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研究期間 (年度) |
1988
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研究課題ステータス |
完了 (1988年度)
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配分額 *注記 |
8,000千円 (直接経費: 8,000千円)
1988年度: 8,000千円 (直接経費: 8,000千円)
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キーワード | 灌漑技術 / 製粉技術 / 染織技術 / 民具 / 民族衣裳 |
研究概要 |
1.西南アジアと東南ヨーロッパはともに回廊的な性格をもち、古来、文化と民族の往来が相互にみられ、とりわけオスマントルコ帝国が200年前後にわたって東南ヨーロッパを支配していた歴史もあって、双方には共通した物質文化が今日でも顕著にみられる。本研究は、この両域の基底物質文化の中にみられる相互影響的な類似性を、文献・資料・現物などを手掛かりに、歴史地理学的に検証しようとしたものである。 2.今回の研究では、製粉技術、繊維製品加工技術、民族衣裳、民具、灌漑水利技術を対象に、トルコ的要素の発見・析出をおもな目的とした。なお、調査研究地域は、全員がトルコ的要素確認のために訪れたトルコと、民族衣裳・民具研究のメンバーが赴いたユーゴスラヴィア、ブルガリア、および残りのメンバーが赴いたハンガリーである。 3.(1)ハンガリーにおける灌漑水利技術は、自然条件の差もあってか、トルコとの間の共通性をあまり示さない。唯一、馬を用いた井戸水汲み上げ装置が多少の類似性をもっているとみなされるが、しかしその名称はトルコを名付けず「ブルガール車」Bulgar Kerekと呼ばれ、ブルガリアでの発祥かあるいはブルガリアからの間接伝来を物語っている。 (2)製粉業が産業革命の口火を切ったといわれる程に、穀倉地ハンガリーでは伝統的に製粉技術は進んでいる。人手によらない伝統的な製粉法としては馬2〜3頭牽きのdry mill(szarazmalom)があるほか、垂直型の製粉水車water mill(vizimalom)、塔型の製粉風車wind mill(szelmalom)、およびドナウ川上に浮かべた舟水車boat mill(hajomalom)がハンガリーにはみられる。これらのうちdry millはハンガリー独特の製粉法で他に類をみない。また、舟水車は古代ローマ帝国末期にローマで発明されたものの伝来で明らかに西方起源である。他方、垂直型製粉水車と塔型風車はともにドイツ起源がうたわれ、トルコで一般的な水平型水車や綿布羽根をもつ塔型風車とは異質である。 (3)ハンガリーの繊維産業に関しては、東北部のサトマール地方の亜麻加工業と、西北部のパーパの手捺染業をおもに調査の対象とした。調査の結果では、パーパの技法は19世紀初期にドイツから伝えられたものであり、サトマール地方の亜麻加工業もその技術は西方起源のものとみなされ、ともにトルコとの関連は明らかにしがたい。 (4)いうまでもなく、東南ヨーロッパにおけるトルコの文化的影響は、地理的位置関係やオスマントルコ帝国の領有期間の長短とも関連し、ハンガリーのような北方地域よりもブルガリアやユーゴスラヴィア中南部のような南方地域に、より強くその影をとどめている。民族衣裳・民具に関する実地調査に際しても、ユーゴスラヴィアのボスニア、ヘルツェゴヴィナ、マケドニア、およびブルガリアにおいては、たとえば農具やカーペット文様などを通じて、トルコの影響は十分に確認された。 4.今回の研究は単年度、短期間のものであったため、その成果は十分であったとはいえない。しかし研究を継続する意図は有しており、今後はハンガリー、ユーゴスラヴィア、ブルガリアでのインテンシヴ調査の実施、ルーマニア、ギリシアへの調査地域の拡大、農耕技術などの新たな調査項目の追加、などを計って、より一層問題の解明に当たりたい。
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