研究課題/領域番号 |
63041140
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | (財)日本モンキーセンター |
研究代表者 |
河合 雅雄 日本モンキーセンター, 所長 (10027477)
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研究分担者 |
テボング E カメルーン国立動物学研究所, 所長
三谷 雅純 京都大学, 霊長類研究所, 日本学術振興会特別研 (20202343)
大沢 秀行 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (60027498)
TEBONG E. DIRECTOR, ZOOLOGICAL RESEARCH INSTITUTE, CAMEROON
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研究期間 (年度) |
1987 – 1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
17,200千円 (直接経費: 17,200千円)
1989年度: 5,100千円 (直接経費: 5,100千円)
1988年度: 12,100千円 (直接経費: 12,100千円)
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キーワード | ニシロ-ランドゴリラ / マンドリル / 熱帯林 / 分布調査 / パタスモンキ- / サバンナモンキ- / 採食生態 / 社会行動 |
研究概要 |
昭和63年度は、湿潤地としてコンゴ国、カメル-ン国、赤道ギニア国の熱帯林を回り、主として森林構造と霊長類種構成の関連を調べた。また乾燥地として、昭和59年以来調査を継続してきたカメル-ン国カラマルエ国立公園において、パタスモンキ-の社会生態学的研究を進めた。平成元年度はこれらの調査から得られた資料・デ-タの分析を進めつつ、1名をコンゴ国サンガ州ボマサ地区に派遣し、初年度との比較資料を収集した。 調査地の内、湿潤地の植生は、熱帯常緑林、熱帯半落葉樹林、熱帯山岳林に大別できた。霊長類の種数、個体数とももっとも豊富であったのは、カメル-ン国南東部からコンゴ国北部にかけて見られた熱帯半落葉樹林であった。中でもコンゴ国サンガ州ボマサ地区においては、同所的に共存する昼行性霊長類11種を確認し、生息集団数密度も、カメル-ン国南西部の熱帯常緑林などと比較して、3倍(オオハナジログエノン)から80倍(ホオジロマンガベイ)という高い密度推定値を得た。また、ボマサ地区において、現在まで多くの研究者が試みてきたが成功例のなかったニシロ-ランドゴリラのヒト付け(動物が研究者を恐れなくなるまで慣らすこと)に初めて成功した。湿潤地の調査を通じて、従来知られていなかったカメル-ン国南東部(ジャ-川南岸)のマンドリル、コンゴ北部のレッドコロブスの1亜種、アレンズモンキ-の分布を確認した。 一方、乾燥地であるカメル-ン国カラマルエ国立公園はサハラ南縁部に位置し、パタスモンキ-とサバンナモンキ-が共存している。しかし両種の交尾期は正反対で、8月の雨期にはパタスモンキ-は交尾期、サバンナモンキ-は出産期となり、2月の乾期にパタスモンキ-は出産期、サバンナモンキ-は交尾期となる。本調査地での主たる研究目的は、このような差異を生ぜしめる生態学的究極要因を明らかにすることである。これら2種は、調査地においてともにヒト付けされ、かつ個体識別されている。調査では、その中からサンプル個体を選んで終日個体追跡を行ない、行動の観察、記録を行なった。その行動記録から、両種の移動と採食の様式を、時間、距離、距離あたりの採食頻度、移動距離あたりの採食時間、1回の採食時間、1回の移動距離等について分析、両種間の比較を行なった。その結果、パタスモンキ-はサバンナモンキ-に比べて早い速度で広域を探索し、採食移動し、採食する植物種は少ない事などが明らかとなった。また調査地におけるこれまでの研究から、彼らは季節的に行動域を大きく変えることがわかっている。これらを総合すると、パタスモンキ-はモザイク的で変動の大きい食物環境に適応した採食戦略を採用しており、サバンナモンキ-はこれに比べ、安定した食物のある特定小地域、例えば川辺林での採食に適した行動をとっていることが明らかとなった。出産期、交尾期という点から見ると、サバンナモンキ-は彼らにとって最適な雨期に出産を行なっていることが明らかであり、パタスモンキ-は食物変動の大きい乾期に出産していることがわかる。パタスモンキ-の場合は、これが最適の時期かどうかは明確ではないが、彼らの採食戦略が有効に働く時期であることは確実である。 パタスモンキ-の社会行動学的研究としては、一生群れにとどまって集団形成維持の基盤となる雌個体間の社会的交渉を分析し、さらに交渉相手の選択様式と群れの大きさとの関係を調べた。新生児の出現を契機とした、雌間関係の解体と再編成につながる交渉の変化にも着目した。その結果、小さな群れでは雌はほかの雌個体と非敵対的社会交渉を比較的均一に持つが、雌の数が10頭を越える比較的大きな群れでは、数頭の雌を社会交渉の相手として選択し、その結果群れ内の雌たちはいくつかの小集団を形成する傾向があった。また、出産期にはアロマザリングと呼ばれる他個体の新生児を抱いたり運んだりする行動が頻繁に見られるようになり、それを契機にして非出産期には交渉を持たなかった個体を社会交渉の相手として選ぶ傾向が生じ、相手となる雌の数が増加した。この現象は出産期に入る前に持っていた個体間関係を少なくとも一時的に解体し、新しい個体間関係を形成する上で重要な役割を果たすと考えられた。
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