研究課題/領域番号 |
63041163
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研究種目 |
海外学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京国立近代美術館 |
研究代表者 |
富山 秀男 東京国立近代美術館, 次長 (00000381)
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研究分担者 |
樋田 豊次郎 東京国立近代美術館, 工芸課, 主任研究官 (40132708)
藤井 久栄 東京国立近代美術館, 美術課, 主任研究官 (30000384)
佐伯 知紀 東京国立近代美術館, フィルムセンター, 研究員 (70186914)
丸尾 定 , 映画史家 (40099932)
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研究期間 (年度) |
1988
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研究課題ステータス |
完了 (1988年度)
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キーワード | 映画 / 写真 / デザイン / アーカイブ / 映像 / ミュージアム |
研究概要 |
(1)〈映画〉ー第一に、映像芸術のミュージアム活動の基礎である保存・アーカイヴ部門の充実があげられる。このことは特にフランスと英国において際立っており、フランスの場合は国立の機関が法的基準に基づいて映画フィルムの収集、保存、修復を担当しており、個々の団体、組織等はこの機関に所有するフィルムを寄託、必要に応じて一般的寄託解除をうける仕組みになっていた。映画界全体を網羅した英国映画協会にあってはやや形式は異なるが、収集保存はもちろん映画フィルムの大規模な修理・修復・現像作業が行われており、その整然とした作業工程及び管理体系等は今後の我が国のミュージアム活動を構想する上で大いに参考になると思われる。この他、この保存・アーカイブ部門では、ポスター、スチル、シナリオ等の映画資料も収集、保存されている。 第二は、その基礎にもとずく上映活動の充実である。英国映画協会の国立映画劇場は大小合わせて三劇場を有し、多様な企画を展開し多くの観客を集めている。サイレントから70ミリまでの各種のフィルムに対応しうる映写機や音響装置を有し、最良の状態での映画鑑賞を提供している。また上記のフィルム修復の結果である、様々な貴重な作品の公開は多くの映画研究者に映画史初期の研究や、これまで顧みられなかった新しい分野に対する研究の機会を与えている。フランスのシネマテーク・フランセーズも近く開場を予定している新劇場で、より積極的な上映活動を展開するとのことである。 第三には、映画に関する史・資料の展示、即ち博物館活動の充実があげられる。フランスでは主に映画発明前史から1950年代までの史・資料の展示が中心であり、英国ではテレビ等も含めた映像博物館としてより広い啓蒙的展示がなされているという違いはあるが、共に映画映像文化の教育的普及という点では、今後の我が国のミュージアム活動を考える上で参考になるところが極めて多い。 (2)〈写真〉ー調査した美術館の収集を見るに、美術館活動の根幹をなす写真の収集は近年の作品価格の高騰を反映してグローヴァルな収集は困難であるため、各美術館とも写真家の写真に限定せず、アートとしてベストの写真を地域、時代をしぼって収集し、その各特色を展示及び企画展に積極的に反映する傾向にある。そのためには第一に、収蔵写真のデータ作成のためにコンピューター・システムが導入され、それによるパブリック・サービ
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スの向上と美術館相互の情報交換が着々と実現に向かっていることは注目される。第二に調査した美術館に共通して見られた収蔵庫、作業室、研究・資料室、外来研究者用スタディ・ルームの緊密な連関と効率の高い機構と運営は、美術館活動の活性化の点で非常に参考になった。とりわけシカゴ美術館の写真部門はわが国施設として参考にしてもよく、その収蔵庫、収納方法は完璧に近いものであった。 (3)〈各種デザイン〉ーフランスにおけるデザイン作品の収集・展示方針は、各美術館(施設)によって大きな違いがあり、それはそのまま西洋の美術館におけるデザインというものの認識に対する多様性を示していた。 まず宣伝物美術館は、現在約4万点のポスターを所蔵。その保存方法は、収蔵庫内の棚に、所蔵品番号順に平積みするものだった。日本では近年、ビニール製のケースを用いた吊り下げ式が注目されているが、同館でもそれを試みたものの、ポスターの大きさがあまりにまちまちで実際的ではないという理由で中止したということだった。この点、日本の美術館がこれからポスターの収集を始める上でのよい参考例になると考えられる。 収蔵ポスターの分類は、描かれた主題別のABC順だった。しかも、その主題の分け方は、自動車、銀行、飲み物、歌手というようにきわめて即物的で、このことは同館においてはポスターをグラフィック・デザインとしてよりは、まさに宣伝物としてとらえる傾向が強いことを示していた。 C.C.Iでは、デザイン作品の収蔵を一切おこなっていなかった。これは同センターが、デザインをものとしてではなく思想としてとらえようと考えたことの結果である。また同センターではデザインに対する柔軟な視点をとりつづける目的で、学芸員は置かず、代りに担当者が展覧会ごとにセンターの内外からコミッショナーを依嘱するという方法を採用していた。 ラ・ヴィレットでは、同館の最新科学技術をイメージや音と結びつけて展示するという目的、つまり概念を想像力や感受性によって理解するという目的のもとで、各種先端機器がとり入れられ、そこにはさまざまなグラフィック・デザインが応用されていた。ただし、ここでも重要なことは機器そのものではなくデザインをいかに科学と人間との媒介物として活かすかという、思想上の問題だった。今後、日本の美術館がデザインをとりあげるのにあたって、その視点、思想について考えるとき、これらパリの美術館(施設)の例は、貴重な指針を与えてくれるものと思われる。 隠す
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