研究課題/領域番号 |
63042014
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | がん調査 |
研究機関 | 国立がんセンター |
研究代表者 |
藤木 博太 国立がんセンター研究所, がん予防研究部, 部長 (60124426)
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研究分担者 |
SATTAJIT Mai チェンマイ大学, 医学部, 教授
WONGCHAI Vic チェンマイ大学, 医学部, 教授
三木 吉治 愛媛大学, 医学部, 教授 (30028336)
坂井 進一郎 千葉大学, 薬学部, 教授 (20009161)
松島 泰次郎 東京大学, 医科学研究所・癌生物学研究部, 教授 (10012759)
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研究期間 (年度) |
1987 – 1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
12,000千円 (直接経費: 12,000千円)
1989年度: 6,000千円 (直接経費: 6,000千円)
1988年度: 6,000千円 (直接経費: 6,000千円)
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キーワード | 番傘村 / 皮膚がん / HHPA / 発がんプロモ-タ- |
研究概要 |
タイ国、チェンマイ地方は皮膚がんの発症頻度が他の地域に比べ高いことが知られている。その中でもSankampang地区において皮膚がんの発症が特に高頻度であることが過去の調査で明かとなっている。同地区では伝統的に多数の工場で番傘、扇を生産している。その際、防水のためシナ桐油を番傘に塗布する。そのシナ桐油には発がんプロモ-タ-である12ーOーhexadecanoyl-16-hydroxyphorbol-13-acetate(HHPA)が含まれており、シナ桐油の被爆と皮膚がんとの関連性が示唆されている。そこで、このシナ桐油がこの地区の高い皮膚がん発生率に関与しているかどうかを検討することを目的として調査を行った。 まず、チェンマイ地方の各地区における皮膚がんの発症頻度について調査した。最も頻度の高い地区はMueng地区とSankampang地区であった。その発症頻度は人口10万人あたりそれぞれ5.5人と4.7人であった。最も頻度の低いOmkoi地区とSamoeng地区の約5倍の頻度であった。 次に、Sankampang地区で用いられているシナ桐油中にHHPAが実際に含まれているかどうかを検討した。番傘工場より得たシナ桐油をmethanolで抽出し分離精製を行った。炎症をきたす分画を精製し高速液体クロマトグラフィ-かけたところ、純粋なHHPAとピ-クが一致した。従って、番傘工場で用いられているシナ桐油にHHPAが含まれていることが判明した。そこで同地区の番傘工場を中心に、3期に分けて調査を行った。 第1期は、同地区の5工場、従業員総数288名の内、283名について調査した。男性90名と女性193名、年齢は10才から60才まで、従業期間は1年以内から20年に及んだ。そのうち99名に何らかの皮膚異常が見いだされた。しかし、その中に皮膚がん、あるいは前がん病変は認められなかった。 第2期は、Sankampang地方において、以前皮膚がんと診断された患者のリストを作成し、彼らの職歴およびシナ桐油との接触の期間について検討した。しかし、はっきりとしたシナ桐油との関連は認められなかった。また、そのうち4名の皮膚生検の病理組織学的な診断を日本にて行ったが、2名に良性のacanthomaと診断されたのみで皮膚がんは見いだされなかった。 第3期は、50才以上の年齢で、過去傘張りとして働いたことがあり、皮膚症患の既往のある16名について調査を行った。そのうち、4名の皮膚生検を行ったが、皮膚がんは認められなかった。しかし、20年以上仕事を続けた65才の傘張り工に胸部の皮膚がんの既往があることがわかった。 同地区の傘張り工場においては、パ-トタイムとして働く人が多く、雨期には仕事を中断する事が多いため、5年以上の長期にわたって従事する人は少ない。またその製造工程において、シナ桐油を200℃にも熱する為、HHPAが変性している可能性もある。従って、長期にわたり活性の高いHHPAに暴露してきた人が少なく、皮膚がんとの関連を明らかに結びつけるdataは得られなかった。従って今回の調査では、シナ桐油と皮膚がんとの関係を明らかにする事はできなかった。しかし同地区における高頻度の皮膚がんは無視できるものではなく、また皮膚がんのrisk factorを解明する上でも、この研究は非常に重要な意義がある。今後さらに長期的な調査が必要であるとともに、他のrisk factorについても検討しなければならないと思われる。
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