研究課題/領域番号 |
63043007
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研究種目 |
海外学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
栗原 康 東北大学, 理学部, 教授 (90004259)
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研究分担者 |
趙 京済 仁済大学, 生物学科, 助教授
金 俊鎬 ソウル大学, 植物学科, 教授
鈴木 孝男 東北大学, 理学部, 助手 (10124588)
木村 真人 名古屋大学, 農学部, 助教授 (20092190)
菊地 永祐 東北大学, 理学部, 助教授 (00004482)
KIM Joon Ho Department of Botany, Seoul National University, Republic of Korea
CHO Kyung Je Department of Botany, Inje College, Republic of Korea
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研究期間 (年度) |
1987 – 1988
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研究課題ステータス |
完了 (1988年度)
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配分額 *注記 |
1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
1988年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
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キーワード | 韓国 / 干拓地 / 干潟 / 河口域 / 生物群集 / 土壌 |
研究概要 |
韓国の西・南海岸には国土面積の3%にも達する広大な干潟が発達している。今までこのような干潟地の多くは干拓され、多くの干拓地はそのまま放棄され、一部は水田となっている。また、洛東江河口域(釜山近郊)の干潟は渡り鳥の飛来地として国際的にも知られており、干潟・河口域の生物相は豊富でよく保存されている。本海外学術研究では、河口・沿岸域生態系の諸問題を韓国のそれらと比較することによって解析するために、韓国の西・南海岸の干潟、干拓地の土壌、生物群集を1987年度に調査し、生物・土壌試料の採集を行った。本年度は生物の同定、土壌試料の分析を行い、調査結果の総合的な解析と取りまとめを行った。その結果、植生および土壌断面の観察、土壌分析の結果から、植生は干拓後マツナ群落、ウラギク群落、きく科のSonchus群落、エノコログサ群落、チガヤ群落、ススキ群落の順に変化することが示唆された。さらに、その変化のスピードは、土壌表層への淡水の流入、土壌不透水層の深さ、微地形、貝殻層の存在によって影響をうけることが示唆された。干拓地土壌は一般に、還元泥中に蓄積したパイライトが干拓後に酸化されて硫酸となるため、強酸性を示すので、水田として稲を植える前に塩分のみならず硫酸の溶脱を十分に行い、さらに石灰などの施用による中和を行う必要がある。日本の干拓地では、稲を植える前にこのような操作を行っているが、韓国の干拓地では中和の操作を行う事なく、しかも干拓後3年目という短期間の後に稲を栽培している。これに関して、今回の土壌分析の結果から、韓国西海岸の干拓地の土壌中にはパイライトが極めて少なく、干拓後土壌のpHがあまり低下しないことが判明した。さらに、土壌断面観察の結果、土壌の1m以深の層は赤褐色を呈しており、また地質学的にはこの干拓地は今から7500年前のウルム氷期には陸地であったことが報告されているので、赤褐色の土層はこの時期に形成された陸生のものと考えられる。従って、パイライトが形成される海水生の堆積物の発達が悪く、これがパイライトの少ない理由と考えられた。 干潟の生物群集と土壌の調査は韓国西海岸のシノエリ干潟と南東海岸の洛東江河口域の2ケ所で行われた。シノエリ干潟は世界でも有数の干満差を示し、大潮時の干満差は8mにも達する。そのために起伏の大きな極めて広い干潟を形成している。また、洛東江河口域には洛東江が運んで来た大量の懸濁物が堆積し、干満差はそれほど大きくないものの、広い平坦な干潟が発達している。シノエリ干潟は干満差が大きいために、干潮時には多くのクリークが走り、クリークの間の干潟には、比較的勾配の急な斜面をもつ小山(マウンド)が形成されていた。そのため、シノエリ干潟ではクリークからマウンドの頂上までの間に、動物相の異なるいくつかの顕著なゾーンが認められた。即ち、クリークを中心とした高度の低い場所にはヤマトオサガニ、多毛類のGlycera sp.,Nephtys sp.が分布し、高度の高いマウンドの頂上付近にはヒモムシ類がみられ、その中間の高度にはシェンアシハラガニ、イトゴカイ科の一種が分布した。また、底質は泥質で、高度が上がるにしたがって、水分、TC、TN含有量が低下し、Ehは上昇した。一方、洛東江河口域の干潟では、高度差が小さく平坦で、底質は砂質であり、干潟の上部はヨシやScirpus maritimusの塩性湿地となっている。底生動物や底質の分布には高度の違いによる差は認められなかったが、塩性湿地と裸地の干潟との間には生息する底生動物に違いが認められた。即ち、裸地干潟にはウミナナフシ、クリイロカワザンショウガイ、ソトオリガイが優占し、塩性湿地ではチゴガニ、ドロクダムシの一種、カワザンショウガイが優占していた。さらに、塩性湿地のヨシのP、Nを分析した結果、洛東江河口域では塩性湿地のヨシの地上部を刈り取ることによって、1年間にNとして59.456kg、Pとして5274kgを除去しうる可能性が示唆された。
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