研究課題/領域番号 |
63043011
|
研究種目 |
海外学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
阿部 年晴 埼玉大学, 教養学部, 教授 (50038957)
|
研究分担者 |
出口 顕 島根大学, 法文学部, 助教授 (20172116)
小馬 徹 大分大学, 教育学部, 助教授 (40145347)
中林 伸浩 金沢大学, 教養部, 教授 (30019848)
松園 万亀雄 東京都立大学, 人文学部, 教授 (00061408)
長島 信弘 一橋大学, 社会学部, 教授 (60008646)
|
研究期間 (年度) |
1987 – 1988
|
研究課題ステータス |
完了 (1988年度)
|
配分額 *注記 |
1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
1988年度: 1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
|
キーワード | 社会変化 / 国民文化の形成 / 伝統文化 / ナショナル・アイデンティティ / エスニック・アイデンティティ / 独立教会 / 女性の社会的進出 / 学校教育 / 貨幣経済 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は、昭和62年度に科学研究費によって行った調査に関して、(1)各人が調査資料を整理検討しその1部を英文論文として、論文集を出版すること、および(2)研究会を開催して、各自の成果を比較対照するとともに、意見を交換して、62年度の調査の主要なテーマに関して理論的な見通しをうること、であった。 研究会における討論および論文作成のプロセスで明らかになったことのうち、62年度の調査研究の主たるテーマ、すなわち、国民文化あるいは国民意識の形成と伝統文化の関係に関連する部分は以下のように要約できる。 1)国民意識の形成は一線的には進まず、多様なエスニック・アイデンティティとの徹妙な相互作用のもとに進行しつつある。 2)テリクやティリキの例にみられるように、国民国家の社会的政治的状況が民族的結合やエスニツク・アイデンティティを流動化するよう作用しているようなケースがある。また、少数民族の民族意識の再興と呼べるような例もある。かってルオ族にほとんど完全に同化したと見なされていたスバ族は民族的アイデンティティを主張しはじめ、スバ語の使用がかってより盛んになりつつある。これらはすべて国家レベルの政治的社会的状況と密接に関連しつつ進行している。 3)テソ、ルイア、カレンジン、ルオ、グシイ、等の民族意識は、植民地時代、独立後を通じて行政側によって強化されてきたという面をもつが、現在さらに明確化の傾向をたどっている。そして、こうした明確な単位によって構成されるものとしてのケニアという意識が強い。ここではエスニック・アイデンティティを媒介として国民意識が形成されつつある。 4)民族意識の再興ともよべる傾向と並んで、ナショナル・アイデンティティの形成もさまざまな局面でみられる。たとえば、大統領の威信と象徴的意義は草の根においてもきわめて大きく、ナショナル・アイデンティティの核の一つとなっている。このことの伝統文化的基盤を明らかにすることは今後の課題として残されている。 5)現在西ケニアにおいて進行中の社会的文化的変化は、各民族の伝統的文化と国家レベルの変化や西欧文明の影響との相互作用という観点を抜きにしては理解できない。だが相互作用の実態は多様であり、伝統的文化が多様な状況を作り出している場合もあれば、等質的な状況を作り出すように作用している場合もある。たとえば、外来文明のもっとも強力な導入媒体であり、いわゆる近代化の推進力の一つとみなされていた欧米系のミッションから分離独立した独立教会の役割はきわめて多面的であり民族によって多様である。ルオの独立教会には、死者儀礼を異端として伝統的な葬儀を否定すると同時に、妖術や邪術と戦うことを主たる任務としているものが多いのにたいして、ルイアの独立教会には、妖術や邪術を排する点では共通でありながら、死者儀礼を積極的に行うものが多い。ケニアにおいては一般的に独立教会は、敵対するにせよ擁護するにせよ伝統的な宗教と緊密な関係を保っており、独立教会はキリスト教と伝統的な世界観とがもっとも直接的に対決もしくは交流している場であるが、その実態は今日もきわめて複雑である。 諸民族社会に共通に生じつつある変化の背後でこれらの諸民族に共通の伝統的要素が働いているケースもある。貨幣経済やキリスト教の浸透、学校教育の普及などの結果、西ケニアの諸民族の社会では女性が急速に社会的経済的力をえつつある。この結果は、社会生活の単位として家庭が重要性を増しつつあることや、結婚制度の変化などにみられる。一般にアフリカにおいては、女性は政治的な場面では活動の場をあまりもたないが、小規模な交易活動などの自律的な経済活動によって収入を確保する伝統があり、それ以外にも女性は社会的文化的に独自の自律的な活動領域を保証されていた。このような背景抜きにしては、現在の女性の活躍は説明できない。
|