研究課題/領域番号 |
63043030
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研究種目 |
海外学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
樋口 敬二 名古屋大学, 水圏科学研究所, 教授 (50022512)
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研究分担者 |
伏見 碩二 琵琶湖研究所, 総括研究員 (10109358)
岩田 修二 三重大学, 人文学部, 助教授 (60117695)
山田 知充 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (50002100)
大畑 哲夫 名古屋大学, 水圏科学研究所, 助手 (90152230)
上田 豊 名古屋大学, 水圏科学研究所, 助教授 (80091164)
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研究期間 (年度) |
1987 – 1988
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研究課題ステータス |
完了 (1988年度)
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配分額 *注記 |
2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
1988年度: 2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
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キーワード | 比較氷河研究 / 大陸性氷河 / 氷河・積雪の水資源的役割 / 気候変動 / 氷河変動 / 雪氷コア解析 / 大気・雪氷相互作用 / 氷河質量収支 |
研究概要 |
本研究では、1)アジア高山地域における氷河・積雪域の分布、現在の状態、変動の傾向を各地での野外観測によって明らかにし、その地域特性の比較研究を行なうこと。2)アジア高山地域の湿潤および乾燥域の氷河・積雪の水資源的役割に関する基礎的研究を行なうこと、を目的として1987年に実施された現地調査の成果を総括した。この現地調査では、ネパール・ヒマラヤ、ランタン谷の基準雪氷観測所での1985年以来の気象・水文連続観測を継続するとともに、過去10数年にわたって調査してきたネパール・ヒマラヤと好対照をなす西コンロン山域を比較研究の重出地域としてとりあげた。 西コンロン山脈はチベット高原内陸部にあって、アジアの乾燥域の典型的な大陸性氷河が分布している。その調査結果の解析からわかった主な点は、以下のとおりである。 1)同小域には、コンロン山脈全体の氷河画積の69%、中国全体の14%にあたる7997km^2、4579条の氷河が分布している。 2)氷河の質量収支の平衡線高度は5800m〜6000mに分布し、主に夏の降雪で涵養される。 3)降水をひきおこす天候時には、地上から1000m〜2000m高までの大気最下層に強い東寄りの循環場が形成されている。 4)氷河の涵養には、周辺の乾燥した平地の5倍以上の降水量が氷河域に集中し、氷河の形成・維持に山岳地形が有利にはたらいている。 5)氷河の消耗には、乾燥のため、蒸発が占める割合が大きく、とくに晴天時に顕著である。 6)氷河の上・中流部では、高度と内陸度が高いため氷河内の温度が低く、融解水が再凍結して氷河の涵養に寄与する(流出による消耗をおさえる)。 7)降雪は融ける前に蒸発するので、河川の流量に降雪の占める割合が小さく、氷河下流部の融解水が河川上流部流量の大部分を占める。 8)調査地域に多い氷帽型氷河は、涵養量と消耗量がともに小さいため、流動速度が極地氷床と同程度に小さく、年間数メートルである。 9)現在、氷河の顕著な前進・後退はみられないが、大規模な谷氷河では、後退傾向がある。 10)更新世には三回の氷期があったと考えられるが、気候変動にともなう氷河変動によって残されるモレーン規模は小さい。 11)最近注目されている、氷期にチベット高原をおおったとされる氷床が存在した明隙な地形証拠はない。 また、同山域の氷河の雪氷コア試料から酸素同位体、トリチウム、電気伝導度、微小固体粒子、化学主成分、微生物などの分析をおこなった。同雪氷試料は、一部が冷凍輸送されて中国と日本の実験室で物理構造の共同研究もなされ、それらを総合して、最近100年程度の環境変化を検討中であり、その結果は、1989年8月にシアトルで開催されるSymposium on Ice and Climateで発表の予定である。なお、1987年度調査で現地に残置した自動気象記録装置が1年後に中国科学院蘭州氷河凍土研究所の協力で回収され、同山域ではじめての通年気象データが収録された。その結果は、大気・雪氷相互作用の解析結果とともに、上記の国際シンポジウムで報告する予定である。 以上、これまでに得られた成果は、1988年11月に名古屋で開催された日中合同ワークショップでも討論され、報告書にまとめられる。また今回の成果は、1985年度の第一次調査、1989年度に計画されている第三次調査の成果ともあわせて、アジア高山地域各地の氷河特性を比較・総合すること、また、気象・水文連続観測による氷河・積雪の水資源的役割の長期変動の解析にも生かされる。
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