研究課題/領域番号 |
63043044
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研究種目 |
海外学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊谷 純一郎 京都大学, アフリカ地域研究センター, 教授 (10025257)
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研究分担者 |
今井 一郎 弘前大学, 人文学部, 助手 (50160023)
佐藤 弘明 流球大学, 医学部, 助手 (40101472)
丹野 正 弘前大学, 人文学部, 教授 (30092266)
菅原 和孝 京都大学, 教養部, 助教授 (80133685)
市川 光雄 京都大学, アフリカ地域研究センター, 助教授 (50115789)
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研究期間 (年度) |
1987 – 1988
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研究課題ステータス |
完了 (1988年度)
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配分額 *注記 |
2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
1988年度: 2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
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キーワード | 狩猟採集民 / 生態人類学 / 動植物利用 / 環境のポテンシャル / 社会変容 / 近代化 |
研究概要 |
アフリカの代表的な狩猟採集民である中央アフリカのピグミー及び南アフリカのサンの諸集団について、昭和62年度に実施した海外調査によって得られた資料の整理と総括をおこなった。本研究によって得られた知見・成果は以下のとおりである。 1.中央アフリカの熱帯多雨林に住むピグミー系の諸集団に関しては、昭和63年度に分担者1名がアフリカに赴き、動植物標本の同定作業に携った結果、比較研究のための資料の一部を整えることができた。この地域のほぼ同一環境の下で生活する狩猟採集民・焼畑農耕民の動植物に対する認知と利用の比較をおこなったところ、言語等の文化的伝統がまったく異なるにもかかわらず、動植物の利用に関してかなりの類似性を認めることができたが、これは、生活環境の類似性と文化的コンバージェンスの両方にもとづくものと推定された。これとは逆に、同一地域内でも集団によって利用される資源がかなり異なる場合があることから、環境のもつポテンシャルは単一もしくは少数の集団によって利用される資源から推定されるものよりもはるかに豊かなものであることが示唆された。熱帯アフリカの森林に住む狩猟採集民のほとんどすべてが、周辺の農耕民と共生的関係を保っており、彼らとの間で、農産物と労働力及び獣肉などの森林資源の交換をおこなっている。こうした共生的関係について生態学的及び社会的側面から明らかにするために、利用環境の相違、生業分化、食生活、社会交渉のあり方などの分析をおこなった。また、近年の急速な商品経済の浸透にともなって、こうした共生的関係や彼ら同士の社会関係にどのような変化があらわれているかを検討した。その結果、この地域の狩猟採集民は、いずれも商品経済の浸透の下で、タンパク質及び労働力の供給者として、地域経済の中で重要な役割を果していること、こうした獣肉や労働力の商品化にともなって、彼らの社会では、食物分配や共食の習慣が衰退しつつあり、社会の個人主義化が進行していることが明らかになった。 2.南部アフリカのカラハリ砂漠に住むサンの社会についてはとくに近代化・商品経済化にともなう社会変化に焦点を絞り、生業様式・居住パターン・社会交渉等の分析をおこなった。この地方では、最近になって井戸が堀られたり、学校や診療所が建設されるなどの変化が起きている。また、賃労働や工芸品の製作等による現金収入の道もひらかれるようになった。これらの「近代化」にともなって、以前はせいぜい数十人程度で移動生活をしていたサンが、500人を越える定住集落を形成するようになった。このような定住化・集住化にともなう変化を、野生植物の利用や狩猟活動にみられる変化、小規模な耕作や家畜の導入、食生活の変化、分配や相互の訪問活動における変化、対人交渉や、結婚生活にみられる変化等の点について検討した。その結果、彼らの社会の基本原理である平等主義と互酬性の原則は、食物などの消費生活についてはまだよく保たれているが、一方では馬やその他の家畜、畑などの生産財に関して個人差が拡大していることも明らかになった。こうした個人差の拡大によって平等主義がどのように変容してゆくか追跡する必要があることが指摘された。 3.ピグミーの社会及びサンの社会の研究を通して明らかになったことは、これらの狩猟採集民がもはやかつて考えられていたような孤立した状態では生活しておらず、現代の商品経済社会の枠組の中へ急速にとり込まれつつあるという事実である。彼らの社会は、その中で、文化的、社会的危機を抱えながらも、獣肉や労働力の商品化、工芸品の製作などを通じて独自の地歩を築きつつある。このような「現代に生きる狩猟採集民」の姿とその将来像を解明してゆくことが今後の課題となろう。
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