研究課題/領域番号 |
63044013
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤村 勇一 東北大学, 理学部, 助教授 (90004473)
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研究分担者 |
野村 泰志 東北大学, 理学部, 学振特別研究員 (90222207)
LIN S.H. アリゾナ州立大学, 化学科, 教授
大槻 幸義 東北大学, 教養部, 助手 (40203848)
河野 裕彦 山形大学, 工学部, 助手 (70178226)
LIN Syeng H Department of Chemistry, Arizona State University, Tempe, Arizona U. S. A. Profe
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研究期間 (年度) |
1988 – 1990
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研究課題ステータス |
完了 (1990年度)
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配分額 *注記 |
3,000千円 (直接経費: 3,000千円)
1990年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
1989年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
1988年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | 強いレ-ザ場 / 動力学 / 多光子解離 / コヒ-レント非線形相互作用 / フェムト化学 / 核波束 / レ-ザ化学 |
研究概要 |
本研究の目的は、分子と強いレ-ザ場とのコヒ-レントな非線形相互作用により分子の動力学がどの様な影響を受けるかを理論的に明らかにする事であった。これまでの研究成果概要を以下の6課題について順に述べる。 1.分子状態の時間発展に対する光子の統計効果 本課題では、光子と位相の不確定性関係を満たす、レ-ザ場の光子統計性を考慮したコヒ-レント状態を用いて、分子状態の時間発展を記述し、強いレ-ザ場では、光子統計性がどのようにこの時間発展に依存するかを明らかにすることが目的である。平均光子数のまわりにPoisson光子分布を持つコヒ-レント状態を考えて時間依存の分子状態分布、及び位相に対する表式を導出した。光子統計性を考慮した場合には、多準位系の中のある一つの状態にある一定時間局在する事を見い出し、この現象を分子分布のbeat localizationと名ずけた。この現象を利用する事より、分子状態分布の制御の可能性が示唆される。 2.熱浴誘起多光子過程 分子間相互作用によって誘起される多光子過程の寄与を解明する事が、本課題の目的である。我々は、Floquet理論の一つと見なせるFourier展開密度行列理論を提案した。得られた表式は、熱浴中分子が強いレ-ザ場と相互作用している一般の系に適用できるものである。 3.レ-ザによる分子内振動再分配の抑制 本課題では、レ-ザの位相を考慮したIVR(Intramolecular Vibrational Redistribution)抑制理論の構築を行なった。コヒ-レント状態を採用し密度行列dressed state法により、平均光子数と位相差の関数として分子状態のreduced密度行列を得た。これら二つのパラメ-タを変分パラメ-タとして光許容非定常状態の密度が最大となる条件を見い出し、IVR抑制理論式を導出した。二つのレ-ザによるベンゼン分子のCーH伸縮倍音励起状態のIVR抑制をモデルとして取り上げた。本研究では、特に、レ-ザの位相差がIVR抑制に重要な寄与をする事を理論的に明らかにした。この結果は、今後の実験的研究を進める上で意義が大きい。 4.光散乱スペクトルのバンド構造理論 本研究では、dressed状態基底の密度行列法により、多準位からの散乱スペクトル強度に対する表式を導出した。得られた結果は、例えば、三準位系からの共鳴散乱スペクトルは予想される五重項ではなく、三重項からなる。スペクトルの項が少なくなるのは、dressesd state間で非対角項成分がお互いに負に干渉するためである。得られたスペクトル表式は、今後の分子系の強い場中の光散乱スペクトル解析に大きな役割を演ずるものである。 5.非定常光散乱の核波束理論 本研究では、パルス励起によって生成された核波束がどの様な項から成り立って、どの様に時間発展をするかを解明することが目的である。発光相関関数から時間、振動数分解光散乱スペクトル表式を導出し、この表式の解析を行った。その結果、パルス励起で生成された波束は、入射パルスに断熱的に従う項と、レ-ザ光のスペクトル幅の項(Fourier broadening項)の二つの項から成り立っている事、そして入射パルスが去った後は後者の項が時間発展に寄与する事が明らかにされた。 6.レ-ザ場中でのフェムト化学 ごく最近、強力なレ-ザ(TW/cm^2以上の強度)の分子への照射により、光解離極限を越えても解離せず、更にレ-ザ光エネルギ-を吸収する過程が存在する事が見い出され、これはAbove threshold dissociation(ATD)と呼ばれている。このATD機構を解明するため非定常レ-ザ場を含むSchrodinger方程式を解き、波束の時間発展に対する式を導出した。本研究の独創的な点は、得られた波束の表式をFourier変換し、解離生成物の運動量を評価し、生成物の運動エネルギ-分布を得る点にある。実験的に知られているH_2^+イオンのATDに上述の理論を適用し、解離生成物のレ-ザ強度及びパルス幅依存性を調べ実験結果を解析し、そのATD機構を明かにする事が出来た。観測量である生成物の運動エネルギ-分布を評価する本研究の成果は、レ-ザ場中でのフェムト化学の新展開に向けて意義がある。
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