研究概要 |
Rubisco(ribuloseー1,5ーbisphosphate carboxylaseloxygenase)は,光合成の炭酸固定を担う重要な酵素であり,緑葉の全可溶性タンパク質の50%を占めている。私達とDallingらのグル-プ(豪)は,以前コムギを材料に,葉の老化に伴いこのRubiscoが葉緑体数より早く減少することを見い出していた。このことは,すなわちRubiscoが葉緑体中で分解されることを意味する。そこで,本国際学術研究では,私達はコムギを,Huffakerらのグル-プはオオムギを,そしてThomasらのグル-プはLoriumを中心に,葉緑体を機械的に単離し,パ-コ-ル密度匂配遠Sにより精製し,その精製葉緑体中でのRubisco分解について,様々な検討を行なった。 葉緑体中のRubisco分解活性は非常に弱く,精製抗Rubisco抗体を用いたSDSーPAGE/Western blottingレベルでわずかに分解物の検出ができる程度であり,通常のタンパク染色であるクマシ-R染色のレベルでは検出されるものではなかった。(Mae et al.1989)。一方,その分解活性はSDSの存在下で促進されるものであった(Yokota et al.1990)。 この葉緑体中でのRubisco分解活性は,その後,液胞プロテア-ゼをRubiscoタンパクに作用させた場合の活性と非常に似たものであることがわかった。さらに,他のプロテア-ゼであるトリプシンやVー8プロテア-ゼによるRubisco分解,あるいは活性酸素による物理化学的なRubisco分解活性と比較したところ、それらの分解は,葉緑体中に見い出された分解活性とは明らかに異なっており,これは,Rubiscoタンパク側に分解されやすい部位があるゆえに液胞プロテア-ゼによる分解と似ていたわけではないことを示唆した。次に,葉緑体をサ-モリシン処理し,葉緑体外胞膜に吸着または存在するタンパク質を消化すると,そのRubisco分解活性がまったく消失してしまうことがわかった。以上のことは,精製葉緑体中に見い出されたRubisco分解活性が,その単離精製過程で非特異的に外胞膜に吸着してくる液胞プロテア-ゼのコンタミによるものであることを意味した(Miyadai et al.1990)。 しかしながら,その後,SDSーPAGE/Western blottingに供する葉緑体タンパク質量を多くすることにより,液胞プロテア-ゼの作用とは明らかに異なるRubisco分解物様ポリペプチドを検出するに至った。精製抗Rubisco抗体をリガンドとしたアフィニティクロマトを作製し,このペプチドを精製し,Vー8プロテア-ゼによるペプチドマッピングを調べたところ,Rubiscoタンパク質のそれと多くが一致し,Rubisco分解物であることが証明された。また,このペプチドは,精製葉緑体のサ-モリシン処理にかかわらず存在することから,葉緑体中にRubisco分解を担うプロテア-ゼが存在することを強く裏付けた(Suzuki et al.投稿準備中)。 他方,老化に伴う葉緑体タンパク質の消長と光環境の影響について,イネおよびLoriumを中心に詳細に調べた。その結果,光化学系に関与する各種チラコイドタンパク質は,陰葉型植物にみられる光環境条件に適応した消長を示した(Hidema et al.投稿中,Mae et al.投稿準備中)のに対し,Rubiscoを代表とするストロ-マ酵素群は,葉の老化に伴い,いずれの光環境ストレス下でも,同調した消長を示した。このストロ-マ酵素群の同調的な変動は生合成の活発な若い葉においては見られず,このことは,Rubiscoを含めたストロ-マ酵素群には,各々の酵素に特異的な分解系が存在するのではなく,すなわち,Rubiscoに対する特異的な分解系が存在しないことを示唆する結果を与えた(Hidema et al.投稿中)。 以上の結果より,葉緑体中にはRubiscoを分解するプロテア-ゼは存在するが,それはRubiscoのみを特異的に分解するのではなく,いわゆる多機能型プロテア-ゼとして存在していると考えられる。
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