研究概要 |
1.テトラヒドロピラン環をもつ双環ラクタムの合成とその開環重合性 3,4ージヒドロー2Hーピランー2ーカルボン酸ナトリウムから7段階の反応を経て、2ーオキサー5ーアザビシクロ[2.2.2]オクタンー6ーオン(2,5ーBOL)を合成した。一方、アクロレインとマロン酸ジメチルとから出発して、6段階の反応を経て、2ーオキサー6ーアザビシクロ[2.2.2]オクタンー5ーオン(2,6ーBOL)を合成した。2,5ーBOLのNーベンゾイル化物を活性化剤に、ピロリドンのカリウム塩を触媒に用いて2,5ーBOLをアニオン重合し、テトラヒドロピラン環を主鎖に有する新しいポリアミドを得た。このポリアミドは、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど種々の有機溶媒に可溶である。明確な融点を示さず、窒素雰囲気中280〜320℃で分解する。^<13>CーNMR分析によれば、分子鎖は主としてテトラヒドロピラン環がcisー2,5ー結合した単位からなるが、transー2,5ー結合した単位も5〜30%含まれる。これに対して、2,6ーBOLは全くアニオン重合せず、ごく僅かの二量体付加物を与えるにすぎなかった。2,6ーBOLの窒素原子上に生じたアニオンは、その非共有電子対の軌道のひとつがC(1)ーO(2)結合とantiperiplanar位にあるため、ラクタムアニオンが生じると直ちにC(1)ーO(2)結合の開裂を引き起こすことによる。トリフルオロメタンスルホン酸を開始剤に用いると2,6ーBOLは容易にカチオン重合し、無色粉末状の重合体を与える。この重合体はmークレゾ-ルやトリフルオロエタノ-ルなどに溶解するが、酢酸などの酸性溶媒中では分解した。その分子量は500〜700であり、148〜159℃で分解する。種々の分析結果を総合すると、この重合体は6員環ラクタム構造をもつ環状オリゴエ-テルである可能性が高い。 2.主鎖にテトラヒドロピラン環をもつポリエステルの合成およびその性質 トリフェニルホスフィンとヘキサクロロエタンとを活性化剤に用いてtrans-5-ヒドロキシテトラヒドロピランー2ーカルボン酸を重縮合し、テトラヒドロピラン環がtrans-2,5-結合した単位からなるポリエステルを高収率で得た。このポリエステルはトリフルオロエタノ-ルやmークレゾ-ルに可溶であるが、対応するcis単位からなるポリエステルが溶解するクロロホルムやジクロロメタンには不溶である。偏光顕微鏡観察によれば、これらのポリエステルは200℃以上で複屈折を示す。また熱処理によって結晶性が向上する。示差走査熱量分析によれば、280℃付近に融解に基づく吸熱ピ-クが観測された。 4位にエステル結合を介してオリゴオキシエチレン鎖あるいはベンジル基を有する3種の2,6ージオキサビシクロ[2.2.2]オクタンー3ーオン(2,6ーDBOO)の誘導体を新たに合成した。これらはいずれも低温でカチオン開環重合し、テトラヒドロピラン環を有するポリエステル主鎖とエステル側鎖とからなる新しいポリエステルを与えた。無置換の2,6ーDBOOから得られるポリエステルはベンゼンやジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの溶媒には膨潤するにすぎないが、側鎖にエステル基を有する上記のポリエステルはこれらの溶媒にも溶解する。特にオリゴオキシエチレン鎖を有するポリエステルは水にも膨潤し、側鎖エステル基の導入効果が顕著に現れた。生分解性高分子材料の分子設計に向けての知見を得るために、これらのポリエステルの加水分解をpH7.2の緩衝溶液中30℃で調べた。オリゴオキシエチレン鎖を有するポリエステルは5日間で完全に加水分解され、無置換あるいはメチルエステル側鎖を有するポリエステルに比べて際立って高い加水分解性を示した。
|