研究分担者 |
マルズキ サンコット モナッシュ大学, 生化学部, 助教授
リネン アンソニー・W. モナッシュ大学, 生化学部, 教授
田中 雅嗣 名古屋大学, 医学部, 助手 (60155166)
MARZUKI Sangkot Monash University, Clayton, Victoria, Australia
LINNANE Anthony W. Monash University, Clayton, Victoria, Australia
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研究概要 |
ミトコンドリアには固有の遺伝子(ミトコンドリアDNA,mtDNA)が存在し,酸化的リン酸化系の4つの酵素(複合体I〜IV)の合成を指令している.本研究の目的は,疾患および加齢過程におけるmtDNA変異の関与を明らかにすることにある. 本研究の成果の第一は,ミトコンドリア脳筋症に伴うmtDNAの点変異の解明である。MELASの2症例のmtDNAの全塩基配列を自動DNA解析装置を用いて解析した結果、共通してmtDNAのtRNA^<Leu>(UUR)遺伝子にA→G転位が見いだされた。この部位のA塩基は種間で保存されており、この転位がtRAの機能に影響を及ぼすことが示唆された。MERRF患者のmtDNAの塩基配列の解析によって,tRNA^<Lys>遺伝子にA→G転位が見いだされた.さらに複合体Iと複言体IVのサブユニットの合併欠損を示した致死性乳児型ミトコンドリア心筋症の1例でtRNA^<Ile>遺伝子にA→G転位が見いだされた。これらの変異の結果,ミトコンドリアでの蛋白合成が障害され,酸化的リン酸化系複合体が特異的に欠損するものと推定された.一方,Leber病ではND4遺伝子にG→A転位が変化している.研究者らは,日本人の家系においてこの変異が母系遺伝していることを明らかにし,Leber病の病因であると推定した. 研究者らは特発性心筋症患者の心筋組織においてPCR法を用いて欠失mtDNAを検索した結果、重症の3例においてmtDNAの多重欠失を見いだした.さらに,特発性心筋症患者の心筋における欠失mtDNAの蓄積が,正常でも見られる緩徐な欠失mtDNAの増加が病的に促進された結果であろうと推定し,さらに数多くの正常例との比較を行った.その結果,欠失mtDNAに由来する断片は,若年者では検出されず,年齢が高くなるに従って検出率が上昇し,70歳台以上ではでは全例において検出された.特に80歳台以上では複数の断片が検出され,mtDNA欠失が多発性に生じていることが示された.また肥大型から拡張型に移行したと考えら大型から拡博型に移行したと考えられる特発性心筋症の症例では、同年齢の正常コントロ-ルと比較して特に著しい欠失mtRNAの蓄積があることを報告した. 研究者らは,パ-キンソン病(PD患者における複合体I活性の低下がある種の阻害剤によるものか,あるいは活性の低下が複合体Iサブユニットの欠損に基づくものかを検討するために,複合体Iサブユニットを分析した結果,分析したパ-キンソン病患者5列のうち4例で数種の複合体Iサブユニットの量が減少していることが明らかになった.さらに,免疫組織化学においても,複合体Iの量が減少した神経細胞の割合がコントロ-ルと比較して増加していることが明らかになった. 複合体Iサブユニットの欠損の分子生物学的基礎を明らかにするためにパ-キンソン病患者のmtDNAをPCR法により分析した.PD患者全例の線条体において,正常mtDNAに由来する断片に加えて欠失mtDNAに由来する断片が検出された.大脳皮質においても欠失mtDNAに由来する断片が検出されたが,線条体よりもその割合は低かった.このような欠失mtDNAの分布は黒質線条体系の選択的な神経変性に関連した所見と考えられた.さらにmtDNA欠失の量を詳細に検討するためにkinetic PCR分析を行なった結果,コントロ-ル比べてPD患者の線条体における欠失mtDNAの割合は10倍以上大きいことが明らかになった.即ち,こうした欠失mtDNAは元来健常者でも小量存在し,加齢と共に蓄積するが,ある域値を越えて欠失mtDNAの蓄積が生ずることが,PDの病態に関連しているものと考えられた. オ-ストラリア側の共同研究者は,正常人の骨格筋のミトコンドリアの酵素活性を測定し,複合体IVおよび複合体IIーIIIの活性は年齢とともに低下し,高齢者のミトコンドリアの活性は若年者の約1/2に低下していることを示した.これらの酵素活性低下は生涯にわたるmtDNA変異の蓄積を原因として生じたものである可能性が考えられる.
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