研究課題/領域番号 |
63044091
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
御子柴 克彦 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (30051840)
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研究分担者 |
SUTCLIFFE J. スクリプス研究所, 教授
岡野 栄之 大阪大学, 蛋白質研究所, 助手 (60160694)
池中 一裕 大阪大学, 蛋白質研究所, 助手 (00144527)
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研究期間 (年度) |
1988 – 1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
3,800千円 (直接経費: 3,800千円)
1989年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
1988年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
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キーワード | 遺伝子発現調節 / ミエリン塩基性蛋白質 / グリア線維性酸性蛋白質 / ニュ-ロフィラメント / ミエリンプロテオリピド蛋白質 / in vitro転写系 |
研究概要 |
脳神経系では多種多様の細胞が複雑でしかも整然とした構造を構築している。細胞に特有の性質を与えている根本には、その細胞で特異的に発現している蛋白質があるので我々は脳神経系で特異的に発現している蛋白質の遺伝子をクロ-ニングし、その遺伝子の発現の制御機構を解析したので報告する。 われわれはニュ-ロンのマ-カ-遺伝子としてニュ-ロフィラメント(NF)遺伝子、アストロサイトはグリア線維性酸性蛋白質(GFAP)遺伝子、オリゴデンドロサイトはミエリン塩基性蛋白質(MBP)とミエリンプロテオリピド蛋白質(PLP)遺伝子を選び解析した。 MBP遺伝子はグリオ-マとニュ-ロブラスト-マのハイブリッド細胞であるNG108-15細胞で効率よく転写されることが明かとなった。また、転写開始部位上流235bpあればMBPプロモ-タ-は効率よく転写されることが明かとなった。そこで上流200bpほどの部分をより細かく区切った欠失変異体が作成したところ、-139から-118に削られると、著しく活性の減少することが明かとなった。この領域には転写制御因子の1つであるNF-1の認識配列に近いboxが存在する。-89から-75に短くなっても活性がさらに減少するが、この領域にはGC box及びCAAT box様の塩基配列が存在する。次にどのような細胞因子がMBP転写に必須なのか調ベるためにin vitro転写によく用いられるHaLa細胞の抽出液でMBPプロモ-タ-領域を含むDNA断片を転写させたところ、in vivoの転写開始部位と同じ場所から転写されることがわかった。MBPプロモ-タ-領域のNF-1,GC box,CAAT box,TATA box様の塩基配列の配列に変異を加えて解析したところ、CAAT box以外はすべて変異によって転写効率が減少し、NF-1,SP-1などの細胞因子がMBP遺伝子の転写に寄与していることが示唆された。なかでもNF-1結合部位はMBPの組織特異的な発現に必要であり、脳組織特異的なNF-1様因子の存在が示唆された。 GFAP遺伝子の発現調節機構をMBP遺伝子と比較しながら解析を進めた。GFAP遺伝子は、GFAPcDNAをプロ-ブにしてマウスゲノムライブラリ-よりクロ-ニングし転写開始部位を決定し、その上流域2.5kbの塩基配列を決定した。種々の細胞でGFAP遺伝子プロモ-タ-の活性を調
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ベると、GFAP産生細胞で特に活性が高く、-256bp以内にこの細胞特異性を決めるcisエレメントが存在することが判明した。核内因子の結合部位をDNaseIフットプリント法を用いて解析すると、-82〜-104(I)、-104〜-124(II)、-140〜-163(III)の三つの領域に脳組織やC6の核内因子が結合した。Iの領域にはAPー2が、IIの領域にはNF-1が、IIIの領域にはCRE(cyclicAMP responsible element)のモチ-フがあった。これらのフットプリント領域について、塩基置換を起こすと核因子の結合能を失う。転写活性を測定しても、IIIの領域は細胞特異的な転写抑制領域であり、この抑制効果はIの領域と機能的に共役していることがわかった。正に働く最も重要なcisエレメントはIIの領域である。IとIIIを破壊するとGFAP産生細胞でのみ発現する特異性が消えて、NG108-15などニュ-ロン系の細胞やNIH3T3などの線維芽細胞でも発現する。 このようにMBP,GFAP遺伝子ともにその中心的な組織特異性を示す活性化因子として、NF-1という普偏的な因子が見つかってきた。しかし、詳細に検討するとわずかながら精製NF-1と脳組織由来の核抽出液を用いたDNaseIフットプリントのパタ-ンの異なることがわかってきた。そこで、NF-1,cDNAをプロ-ブにマウス脳cDNAライブラリ-をスクリ-ニングしたところ脳特異的なNF-1様因子のcDNAを単離することができた。現在この因子の生理的意義について検討中である。 68kDaニュ-ロフィラメント(NF)についても遺伝子をクロ-ニングし、その発現制御機構について検討した。NFプロモ-タ-はどの細胞においても強い活性を示した。また、5′末端から欠失変異体を作成しNFを発現しているPC12細胞と発現していないC6細胞に導入したが、同じようなパタ-ンで活性が変動した。また、HeLa細胞の抽出液を用いたin vitroの転写系においても非常に効率よく転写された。即ち、NF遺伝子は非神経系でNegative Regulationを受けている可能性がある。しかし、今のところどの領域で、どの様な因子によって抑制を受けているかわかっていない。 さて、我々はグリア系の細胞に発現しているMBPとGFAP遺伝子はPositive Regulation、ニュ-ロンに発現しているNFは、Negative Regulationを受けていることを示唆したが、はたしてこのような機構はそれぞれの細胞で普偏的なものであろうか。ミエリンプロテオリピド蛋白質(PLP)は、MBP同様オリゴデンドロサイトで合成され、しかもその発現時期もMBPとともにミエリン形成期と同調している。この両遺伝子を比較することで、オリゴデンドロサイトで遺伝子が発現するためのシグナルが見つかるのではないかと期待された。しかし、実際解析してみると、PLPプロモ-タ-にはMBPの転写調節に重要な役割を果たしていることの示されたNF-1様因子の結合部位が見いだされないし、5′上流域1.5kbのDNA断片に神経系の細胞特異的に転写を開始する能力を認められなかった。 以上のことから脳神経系の細胞では、その高次な機能に対応するかのように、見かけ上同じ様な転写制御を受けている遺伝子でもかなり違った機構で調節をしていることが示唆された。 隠す
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