研究課題/領域番号 |
63045014
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 大学協力 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森 正夫 名古屋大学, 文学部, 教授 (00036641)
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研究分担者 |
羅 崙 南京大学, 歴史系, 助教授
洪 煥椿 南京大学, 歴史系, 教授
林 上 名古屋大学, 教養部, 助教授 (10097686)
海津 正倫 名古屋大学, 文学部, 助教授 (50127883)
津田 芳郎 北海道大学, 文学部, 助教授 (30091474)
HONG Huanqun University of Nangjing, Faculty of History, Professor
LUO Lun University of Nangjing, Faculty of History, Associated Professor
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研究期間 (年度) |
1988 – 1989
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研究課題ステータス |
完了 (1989年度)
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配分額 *注記 |
4,900千円 (直接経費: 4,900千円)
1989年度: 2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
1988年度: 2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
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キーワード | 江南デルタ / 小城鎮 / 社会経済構造 / 郷鎮企業 / 生産責任制 / 集落システム / 自然地理的環境 |
研究概要 |
人文・社会科学の分野における名古屋大学と南京大学との学術交流は、自然科学の分野に比べて立ち遅れていた。「中国江南デルタの中小都市ーー市鎮ーーの社会経済構造に関する歴万学的地理学的研究」は、両大学の歴史学・地理学研究者が抱いている共通の関心から出発し、上記の立ち遅れの解決を目指し、一定の成果を上げた。両年度にわたって、本共同研究は当初予期しなかった困難に直面した。第1年度は江蘇省当局の調査許可の遅延と連日の39度を越す高温であり、第2年度は天安門事件による夏季の調査実施中止と秋季実施時点での期間短縮である。しかしながら、これらの困難は、結果として望外の収穫の機縁となった。 第1年度は、日帰りで多くの(合計12)小城鎮(市鎮)を概観せざるをえなかったが、そのため、かえって江蘇省・上海市境域内における小城鎮の自然地理的立地条件、市街地の景観、交通網、市場・商店・工場・茶館・娯楽文化施設・町並みと伝統的家屋等の存在形態、効外農村における農家経営、両大行政区域における小城鎮行政・文化財担当者の見解、南京・蘇州・上海における小城鎮研究者の研究成果などについて、広範にして多様な認識と基礎資料を獲得することができた。第2年度は、当初の4調査地点を2地点に、浙江省を中止して上海市域のみにしぼらざるを得なかった。しかしながら、そのため、同じ上海市にありながら、まったく性格を異にする青浦県朱家角鎮と宝山区羅店鎮の特徴に即して、しかも比較対照しながら調査することが可能になった。例示的に述べておこう。まず明清・民国以来の伝統の強い朱家角鎮においては、従来全く研究されて来なかった基層行政組織である居民委員会について詳細な調査を行い、小城鎮のみならず、中国の市街地地区の行政と市民の参加、市民の権利、伝統意識との関連、政党の指導などをめぐる貴重な事実が明らかになり、そのことを通じていわば中国型市民社会の特質を明らかにすることができた。また、あえて市街地部分の朱家角鎮との合併を拒否している農村部分の朱家角郷における政府幹部との長時間にわたるインタヴイュ-では、土地も広く人口も多い農村部分が労働力の質と量、建築面積の大きさ、資金の豊富さにおいて市街地部分を圧倒しており、そこに農村部における郷鎮企業発展の根本原因があることが明らかになった。そして、この地域の農村部には、土地改革にいたる農民的土地所有獲得への歩みをも反映して、個別農家による生産責任制(請負制)が強固に根を張っていた。上海市により接近し、経済的合理化のより羅店鎮では、様相は全くことなっていた。ここでは、市街地部分の居民委員会に相当する農村部の村民委員会を調査した。私たちは、農村では、同族関係や不動産をめぐる伝統的な紛争が非常に多く、委員会の調停活動の大半はそのために割かれるであろうと予測した。しかし、こうした紛争はほとんどなく、朱家角鎮と同様の近隣関係のささやかなもめごとの処理が活動の主たる内容であった。そのことは、ここでは、農地が個別農家によってではなく、自然村を単位とする生産責任制によって経営されていることと密接に結びついている。この自然村単位で請負われた広い土地を、生産隊の中の大規模経営農家がさらに請負うという仕方が普遍的である。このように大規模経営による生産性向上を企図する発想が、工業においても見られる。羅店鎮では、鎮の市街地部分に巨大工場を設置し、全鎮の資本と労働力を挙げて経営に当っている。以上のように、第2年度の調査は、江南デルタの、しかも同じ上海市域にある二つの大きな市鎮がそれぞれ固有の特質とその発展の不均等性をもつことを明らかにしたが、自然地理担当の研究者は、広く太湖から杭州湾にいたる平原の形成過程についての観察をもとに、低湿地に属し、未だに水路が重要性を帯びる朱家角鎮と、微高地にあり、陸運の発展に頼ってきた羅店鎮との相違を分析した。 ところで、平成元年10月の南京大学との研究会では、南京大学の歴史・地理研究者が、常に江南デルタの市鎮を、個別市鎮を越え、常にト-タルに論じていたことである。名古屋大学は逆に個別市鎮の分析から出発する。この両校の方法論的特徴の交流こそ、市鎮自体の検討と共に今後再開されるべき共同研究の重要な課題である。
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