研究概要 |
本研究は,東アフリカ海岸地方(いわゆるスワヒリ地方)の文化特性を把握するために,伝統的アフリカ要素と外来のイスラム要素との混合に関して,主として言語学的・民族学的な方法,及び口頭伝承資料の援用によって,その性格を究明しようとするものであった。具体的には,スワヒリ語の方言的種々性を考察し,口承文芸資料の言語学的分析に基づいて,イスラムとアフリカの両文化伝統の交錯の実態を究明しようとしたのである。筆者は,内外の従来の研究成果を再検討するなかで、この間に『スワヒリ文学の風土』『文学から見たアフリカ』‘Swahili Manuscripts of Shaaban bin Robert'『ことば・文学・アフリカ世界』『タンザニアの昔ばなし』の四著,ならびに「シャアバン・ビン・ロバ-トの推敲」「現代ナワヒリ文学の伝統と革新」(予定)など,いくつかの論考を発表してきた。 広くアフリカ的背景の中でのスワヒリ地方の文化特性の把握に関しては,これらの著作によって,主としてマクロな視点から一定の成果を引き出しえたものと考えている。ただ,口承文芸資料に関しても,スワヒリ諸方言の調査と分析に関しても,内外の従来の研究の蓄積は相当に乏しく,今後は綿密なフィ-ルド調査に基づいた,綜合的かつ豊富な第一次デ-タの収集が緊急の課題である。また,スワヒリ地方における伝統的アフリカ要素と外来のイスラム要素といっても,それぞれの要素は一元的に存在するのではなく,時代毎に,その内部に多様な文化要素をすでに抱え込んでおり,スワヒリの文化特性をアフリカとイスラムの二元論で把握することに限界のあることも明らかである。スワヒリ諸方言の具体的記述こそが今後の展望を切り開く優先課題であると思われる。
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