研究概要 |
走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてグラファイト上に吸着または析出させた高分子鎖の形態観察を行った。まずやわらかい高分子であるポリビニルカルバゾ-ルを用いヨ-ドをド-ピングすることにより吸着高分子鎖の大局的吸着形態をとらえることができた。またこの形態は孤立吸着鎖に対する理論予測とも合うことが分った。ついでDNA分子の二重らせん構造(2型)の観測にも成功した。これらをふまえグラファイト表面が疎水性であり,この表面上で分子を孤立させるには分子表面の疎水性・親水性のバランスが必要ではないかと考え,でんぷんを構成する高分子であるアミロ-スをえらび,これのSTM観察を試みた。アミロ-ス分子表面は疎水性と親水性をかね備えていると考えたからである。予想通りアミロ-ス分子の孤立した分子像の観測に成功し,一重らせん構造をとらえることができ,分子の全長は分子量から求めた値と一致し更にらせんのピッチも結晶構造と一致することが分った。つづいて電解質多糖であるKーカラゲナンゲルの架橋領域の観測にも成功し,架橋領域が2〜3本の棒状カラゲナン分子の平行配列的なス-パ-ストランドから成り,カラゲナン分子がピッチ25A,太さ15Aのヘリックスであることも明らかにできた。これらはいづれも世界で始めての観測例である。以上をまとめるとSTM観察に成功するか否かはグラファイト表面と高分子表面の相互作用の適当なバランスが必要ということになり,改めて高分子の分子表面科学という新分野の研究の重要性を指摘した。
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