研究概要 |
D.melanogaster,D.simulans,D.mauritiana,D.sechelliaのmtDNAの配列を決定し、そのうちND2〜CO1の領域を含む2564bpの解析を行い、これら4種の進化の過程を推測した。トランスバ-ジョン型塩基置換率は種内・種間を通してほぼ一定で系統樹作成に好ましい性質を示す。この系統樹に基づいて得られた進化過程を次の3点にまとめて記述する。(1)D.simulans,D.mauritianaの種内変異の起原は非常に古く100万年を下らない。しかしながら,種内変異を構成しているこの様なタイプには、タイプ内の変異が全く存在しない。從ってこれら2種がこのような中立変異を100万年以上にわたり維持してきたことは、交配が任意に起こらなかったことを意味し、分集団が地理的に隔離してきた可能性が高い。しかし分集団間にはわずかな遺伝子の流出入があり、少数例を除き種分化の過程までには至らなかった。 (2)D.sechelliaは明らかにD.simulansと最も近縁であり、その分集団の一つから派生したと考えられる。(3)D.mauritianaとD.simulansに共有される相同性の高いゲノムは、これら2種の分岐がごく最近であるか、あるいは長期間にわたる分集団化にもかかわらずこの2種間の生殖的隔離の程度が不十分であることを示している。 別の解析からDrosophilaのmtDNAでは組み換えの可能性や塩基置換率の変動という新しい検討すべき問題も指摘出来た。こうした点を明らかにすることが今後の課題であろう。生物進化の過程の解明に新しい視点を与えることが出来ると思われる。
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