研究概要 |
カイコにおける不受精の発現は蚕種業者にとって経済的に大きな損害を受ける事象である。それ故,古くからこの問題を解決しようとして,多くの研究がなされ,多くのことが明確にされた。しかし,未だ解決されない事象が多く残されている。そこで著者はこれらの問題を補助金交付期間内にできるだけ解明しようとして次のような実験を行った。 1)遺伝的性状の明確でない不受精卵多発系統(xuー20)を用いて,3眠蚕系統(M^3)との交種の交雑を行った。その結果,xuー20遺伝子は第6染色体上に存在しているM^3遺伝子と連関しているらしいことがわかった。 2)不受精卵の発現状況と卵内物質との関連を調べるためにタンパク,アミノ酸及び脂肪酸などについて調べた。タンパクについては2次元電気泳動法人よって調べたところ,若干の分子種で差が認められた。また幼若ホルモンは卵内のタンパク種を少なくするがエクジソンは逆の作用をすることもわかった。遊離アミノ酸では,不受精卵は正常卵より,イソロイシンとアスパラギン酸で多く,グルタミン酸,アラニン,メチオニン及びグリシンなどでは逆に少なかった。さらに脂肪酸組成についてみた場合,前者は後者より,カイコにとって栄養価の高いリノレイン酸が極めて少なかった。 3)幼若ホルモンと精細胞の発育との関係をみるためにセルソ-タ-を用いて精細胞の形成状況を調べた。その結果,幼若ホルモンは精細胞の形成に対し抑制的にはたらき,G_1期の細胞が増加する傾向が認められた。 以上の結果より,不受精の発現は,遺伝的なものと非遺伝的なものがあり,極めて多くの要因が関与していることが考えられた。
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