研究概要 |
本研究計画においては、我々が最近見いだした代謝調節型グルタミン酸受容体(Nature 325,531-533,1987)の特徴や、脳の高次機能における役割を追求することを目的とし、次の様な知見を明らかにした。 1.この受容体はGタンパク質と共役して機能し、最初アフリカツメガエル卵母細胞で見いだされたが、その後ラットの海馬培養神経細胞にもこの受容体が存在し、Gタンパク質依存性PI代謝促進を介して細胞内Ca^<2+>動員反応を引き起こすと考えられることが分かった(J.Physiol.(Lond.)414,539-548,1989). 2.この受容体は従来知られていたグルタミン酸受容体のどのサブタイプとも薬理学的性質が異なり、カテゴリ-を全く異にするサブタイプであることが分かった(Neruron 3,129-132,1989)。 3.海馬CA3野シナプス長期増強の分子機構には百日咳毒素感受性Gタンパク質と共役した伝達物質受容体が関与していると考えられることを見い出した(Neurosci.Lett.90,181-185,1988)。 4.海馬CA1野とCA3野の長期増強を比較検討し、前者にはフォスフォリパ-ゼA_2によるアラキドン酸カスケ-ドが関与しているが、後者にはむしろフォスフォリパ-ゼCによるPI代謝が関与している可能性の方が高いことが分かった(Neurosci.Lett.100,141-146,1989)。 5.CA3野の長期増強は、既知のグルタミン酸アンタゴニストでは抑制されない受容体を介していると考へられることが分かった(1989年8月、欧州神経科学協会サテライトシンポジウムにて発表;論文準備中)。 これらの結果は、代謝調節型Glu受容体→Gタンパク質→細胞内Ca2+濃度増大という反応過程が、CA3野の長期増強に関与している可能性を強く示唆していると考えられる。
|