研究概要 |
遺伝性肝炎自然発症ラット(LEC)は,単一の常染色体劣性遺伝子によって急性肝炎, 慢性肝炎を発症し, 高率に肝癌の発生をみる新しい突然変異動物である。 LECラットの肝炎は, 生後4ケ月目に突然発症し,約40%の動物は発症後1〜2週間以内に肝機能不全状態に陥って死亡する。このような経過はヒトの劇症肝炎に類似しており,肝炎劇症化の機構を解析するためのモデル動物となる。 一方残りの60%の動物は, 慢性の肝細胞壊死と肝細胞の再生を繰り返しながら生存し, 1年後全例に肝癌の発生をみる。 したがって, その肝細胞障害を明らかにすることは, ヒトの肝癌発生における慢性肝障害の意義を解析するためにも重要である。 LECラットの肝細胞障害機序を, この動物のDーガラクトサミンに対する高感受性を手がかりに検索した結果,リボゾ-ムRNAのメチレ-ションに働くSーアデノシルメチオニン合成酵素の著しい活性低下がみいだされた。 リボゾ-ムRNAメチル化の低下は,肝細胞の蛋白合成を障害し, 肝細胞を壊死に導くから, 本酵素の低下は,LECラットの自然発症肝炎の原因となり, さらにこの動物が特異的にDーガラクトサミンに高い感受性を示す理由と考えられた。 一方肝炎の発生に伴って, LECラットはDNA損傷の修復能が低下し, 化学発癌物質に対する感受性を著しく増す。 このようにして発癌イニシエ-タ-の作用を受けた肝細胞は, 肝炎に伴う内因性の増殖因子によって選択的に増殖し, 肝癌に至ることが強く示唆された。 このよう, 慢性の肝障害は, 発癌のイニシエ-ションとプロモ-ションの両方の機構に促進的に働き, 肝癌の自然発生をもたらすことが, 本研究の結果から明らかにされた。
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