配分額 *注記 |
5,900千円 (直接経費: 5,900千円)
1990年度: 2,000千円 (直接経費: 2,000千円)
1989年度: 2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
1988年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
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研究概要 |
近年分子遺伝学・分子生物学・細胞生物学の進歩に伴い,病原細菌の上皮細胞侵入と拡散の機構,それに係わる遺伝因子の研究が可能となった。本研究で取り上げた赤痢菌は,今なお開発途上国で小児死亡原因として重要な位置を占めている下痢起炎菌である。本菌は,大腸上皮細胞へ付着後,侵入し(一次細胞侵入)・増殖し,隣接細胞へ再侵入(二次細胞侵入)する。これを操り返すことにより,病変を周囲と深部に拡大し血性下痢を惹起する。具体的には,侵入した菌は直ちにファゴゾ-ム様の膜を破り,細胞貭中で活発に分裂・増殖する。菌自身運動性は無いが,菌体表層に発現しているVirG蛋白により菌体の一端へFーアクチンの凝集を誘導しこれを介して細胞貭内に拡散する。Fーアクチンの凝集はさらに細胞表層から疑足を伸ばし,菌を包む先端を隣接細胞へ挿入する。 我々はこれまで,それら一次細胞侵入に直接関与するビルレンス因子が,菌の有する大プラスミド上に6つ,又二次細胞侵入に1つの遺伝子領域を同定し,その中に十数ケの遺伝子が有機的にコ-ドされている事を示した。これらの知見を基に,本研究では以下の事を明らかにすることができた。大プラスミド上のビルレンス遺伝子は感染の場で合目的に発現するよう,例えば温度・浸透圧等をシグナルとしてきわめて巧妙に調節され,さらに菌の細胞内・間拡散に直接関与するVirG蛋白し大プラスミド上コ-ド)発現が,転写段階でvirFにより転写後の段階で染色体上のKcpA遺伝子により各々制御されていること,さらに侵入後の菌に必要な代謝や宿主防御機構への備えとして,数多くのビルレンス遺伝子群が染色体上に散在し,細胞間拡散を支えている事実を明らかにした。今後本研究成果を基盤にして,個々のビルレンス遺伝子の感染に果す役割を分子レベルで解明することが可能となると思れる。
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