研究概要 |
抗網膜抗体が生体にて産生され,それらが網膜変性症などの病態に関与していることが示唆されている。本研究では各種網膜疾患において患者血清中に抗網膜抗体が含まれるか否かを定性的および定量的に測定した。抗原として用したのはロドプシン,網膜S抗原,カテプシンDおよび網膜粗抽出液であった。この結果,急性網膜壊死および炎性傍静肱性色素性網肱絡膜萎縮症の例において高い抗体価を有することが明らかとなった。 次の段階として網膜特異抗原の各種網膜疾患への関与を研究する目的で可能な限り多数の網膜特異抗原を我々が簡単にしかも安定に利用できる形であるcDNAとして分離,精製を行なった。まず第一に既知の網膜特異蛋白質としてロドプシン,網膜S抗原,トランスデュ-シン(αサブユニット),IRBP,CRALBP,MEKA蛋白質に対するcDNAを選択し,それぞれに対するcDNAをベクタ-に組み込んだ形で大腸菌JM109に形質導入を行なった。これにより各種網膜疾患患者の遺伝子レベルでの網膜特異抗原の異常の有無の検索が可能となった。第二に未知の網膜特異抗原の分離を行なう前段階としてヒト網膜由来cDNAライブラリ-を入手し,プロ-ブとしてヒト脳由来メッセンジャ-RNAも鋳型としてcDNAを合成した。これにより将来,未知の網膜特異抗原に対するcDNAのクロ-ニングが可能となった。最後に網膜色素変性症患者より遺伝子DNAを分離し,網膜特異抗原のひとつであるロドプシンの遺伝子を解析した結果,一家系二症例の常染色体優性遺伝性網膜色素変性症にロドプシン遺伝子の点突然変異の存在が確認された。これは本疾患におけるロドプシンの関与を示唆するものであり注目に値する結果である。
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