研究概要 |
1.20世紀ウィ-ンの実証主義的科学哲学が,その精密な科学的方法の採用と科学的態度の徹底において,ブレンタ-ノ及び彼の学派によって代表される一見異質的にみえる哲学の伝統と,どの程度まで結びつくと言えるのかを明らかにしようとした。このため,(1)「哲学の方法は経験科学の方法と同じである」とするブレンタ-ノの終始変わらない信条が,彼の「直接の明証的判断」という認識論の基本的立場に照らしてみて,彼の一般的な哲学的見地と果たして矛盾しないかどうかを問題にした。また(2)科学的哲学の目標に関して,ブレンタ-ノ学派の最も重要な哲学者の一人であるマイノンクが、彼の「対象論」において,記述的心理学をどのように変え,何を加えようとしたかを検討した。(3)結論として,ブレンタ-ノが「科学的」哲学を擁護してその重要性を強調したのは,グロ-バルで内容のない科学一般についての「科学論」ではなく,個々の科学を可能にするものについての集中的思考であったのであり,そしてこの点で,ブレンタ-ノ及び彼の学派は,ウィ-ン学団の実証主義者や,ウィトゲンシュタインとすら,共通の動機をもつと言えるという理解に達した。2.心的作用における志向性の概念をめぐるいろいろの区別やそこから結果する問題は,実際,言語表現における指示の概念をめぐる同様の区別と問題に正確に対応する。しかしながら、このことは「命題的態度」の問題になんの決定的な解答を与えるものでもない。そのことは単にその問題を正式化し直すだけのことである。3.知識の基礎の問題に関してはブレンタ-ノ及び彼の学派は言うに及ばず,ウィ-ン学団の哲学者たちもまた,大体において独断的な基礎づけ主義者であった。ただノイラ-トだけは例外で,科学的知識の歴史や知識の基礎に関する彼の説明には,後のトマス・ク-ンやクワインの見解に近いものが認められた。
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