本研究では、いわゆる「エスニシティ」をめぐる社会問題を、国家の類型との関連で分析することをめざし、あわせて西欧諸国間の国家類型上の相違に着目した。国家類型論という点では、ビルンボーム、クラズナー、スコチポル等の議論を検討し、また具体的な西欧諸国のエスニック問題としては、移民(外国人)問題および地域主義の問題を分析対象とした。具体的な事例を知るために、他の識者のレクチャーをうけ、フランスの言語問題、カナダの言語・教育問題、南仏オクシタニーやスペインのカタロニアの言語・地域問題、イギリスのジプシー(トラベラーズ)問題等を学ぶ機会をもった。その過程で得た知見としては、同じ民族問題、地域主義といっても、それらが位置している国家の類型によって、その問題の顕現の仕方、主体の性格、適手の性格が相当異なるという点である。移民(外国人)問題の分析では、例えばフランスのそれが、テクノクラートによる行政・経営的課題の性格が強く、問題の位相も国家レベルに位置し、移民集団の自立性も弱くフランスへの同化圧力が強く、労働組合も、同じ労働者という点で共闘する傾向が強く、総じて移民とフランス人との住み分けが進行していない。これに対してイギリスでは、移民問題は政治問題の性格が強く、これに対応するのは政治家や自治体であり、問題そのものも分権化されており、各移民集団も中間集団として一定の自立性を保持している。またフランスに較べ住み分けの傾向が強い。この傾向は、移民の集中する大都市の移民分布とも関連している。また多数のカントンからなる連邦国家スイスでは、外国人問題は言語や宗教上のバランスの問題とも絡まった形で、スイスの国家理念を問うものとなっている。さらに外国人問題の発生の仕方自体が、国民発案・国民投票といったスイス政治システムを反映したものになっている。いずれにせよエスニシティ問題は国家類型との関係で分析することができる。
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