教科書行政はいかにあるべきか。教科書の検定制度は出版の自由、検閲の禁止、教育の自由などの基本的人権との関連で、果たして合憲なのか。西ドイツにおいてもこの問題はかつて長年にわたって深刻な論議をよんだ。しかし西ドイツにおいては、教科書裁判を契機として教科書行政改革が敢行され、今日では、相当程度にオープンで民主的な教科書検定制度を擁するに至っている。そこで本研究は、わが国の教科書行政のあり方についての参考資料を得ることを目的として、西ドイツの教科書裁判と教科書検定制度について、以下のような理論的・実証的な分析・検討を行った。 (1)教科書裁判に関する教育行政学的検討 教科書裁判の原告(出版社)と被告(文部省)の主張、そこにおける争点これについての各界の見解や連邦行政裁判所の判決などを、西ドイツの教育法制や学説・判例を踏まえて、教育行政学的手法によって検討した。この結果、西ドイツにおいては、教科書検定制度は憲法上疑議はなく既に国民的なコンセンサスを得ている、という知見が得られた。 (2)教科書検定制度の法的構造に関する研究 現行の教科書検定制度について、学校法や各種の検定基準なと、西ドイツ各州の教科書検定関係法を収集・分析し、その法的構造を考察した。その結果、たとえば検定・採択過程への教師や親の参加権を保障するなど、検定制度は相当程度に民主化されていることがしられた。 (3)教科書検定制度の運用実態に関する調査 各州の文部省、教科書研究センター、教科書出版社・著作者、父母協議会、教員組合、研究者などに質問紙を郵送し、検定制度の運用実態と課題について調査・分析した。その結果、現行制度がもつ最大の問題点は、検定基準と教科書調査官の権限が曖昧であるということであった。
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