日本歌謡史上、近世歌謡研究は特に立ち遅れているのであるが、今回の補助金を得て、上記の研究課題の実績をあげることができたので、次に具体的に示す。 1.長崎県立図書館所蔵、『長崎歌謡集』を予定通り筆写及び複写によってそのほとんどの歌詞を蒐集することができたが、さらに同図書館・山口麻太郎文庫に、筆写本『諸国民謡集』(上下2巻)を発見し、ほぼ3400種の歌詞を複写によって蒐集することができた。これは昭和初期、壱岐の地方新聞社が全国に郷土色豊かな民謡・流行歌謡を求めてあつめたもので、日本全土の民謡を書き付けようとした『山家鳥虫歌』の研究にもすこぶる有益な資料である。 2.福岡県立図書館では、福岡放送局郷土資料調査委員会報告書『福岡県民謡集』などから、これまでに私が蒐集していなかった歌詞をかなり追加することができた。 3.香川大学附属図書館において、神原文庫『諸国郷土歌』を見ることができた。そのほとんどが創作の市町村歌や校歌などであったが、それでも少なからず伝承の俗謡の報告も認められたので、複写により蒐集した。 4.続いて国会図書館において『小うたぶし』などいくつかの江戸後期三味線小歌系写本を調査蒐集、さらに名古屋・蓬左文庫において小寺玉晁書写『諸国盆踊歌』(『山家鳥虫歌』の一本)を調査蒐集することができた。 以上の数多い筆写ノートや複写を整理分類し、江戸期俗謡一つ一つの歌詞の類型を考察することができ、『山家鳥虫歌』所収俗謡の各々の伝承の実体もあかるみに出た。
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