『失楽園』の世界は神の支配が全空間、全歴史に及んでいる世界である。全てが神の支配の下にある。今まで『失楽園』の矛盾とされてきた天使ラファエル派遣の問題すら、これを例証する。 『失楽園』5巻始め近くに、サタンに誘惑されて堕落する人間を哀れに思われた神が、天使ラファエルを呼び、こう命じられる--サタンに誘惑されて堕落した後、ふいうちを受けた等とアダムが言いわけをしないように、必要な情報をあらかじめアダムに与えよ。「こうして神は正義を果たされた」とミルトンは書いている。この個所に矛盾はない。神は完全な先見をもっておられる。ラファエルが人間に、堕落の後どのようにして神にたちかえるか、堕落後の世界でどう生きるか、教えるであろう事を、神は知っている。その上でラファエルを派遣し慈悲と正義の調和を計られたのだ。 ラファエルは、堕落後の人間を頭において、アダムと話をする。堕落後に人間が手本としなければならないのはキリストである。ラファエルはアダムに勝利のキリストを語る。そしてキリストの栄光と力が父なる神に対する従順に由来することを教える。堕落の後派遣されるマイケルは、謙遜、忍従のキリストをアダムに教える。人間の罪を償い、サタンの業を砕くために十字架の死に至るまで身を低くされる謙遜と、その謙遜のゆえに、神の力がキリストに現れる事をアダムに語る。アダムは対照的な2つのキリストにうたれる。そして、キリストを手本として特に従順と謙遜を学ぶのだ。 神は、これら全てを見越した上で、ラファエルを派遣され、ご自身の意志を行われるのだ。
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