前回までに考察してきたユダヤ社会における大きな二つの特色、1〕、ブルジョア・貴族性、2〕ユダヤ・コンプレックスの二つの精神風土と並んで、この二者を総合、包括する方向として、ユダヤ精神史の著しい特色となす一種の予言者的系譜-これがヴィーン・ユダヤ社会にも発現していると思われるので、その相貌を1)カール・クラウス、2)ジークムント・フロイト、3)テオドーア・ヘルソルの3人の代表的人物を中心に考察しようとした。 1)カール・クラウスの場合〔シオンの系譜-その1-〕 ユダヤ・コンプレックスをむしろ逆手にとり、これを鋭利な風刺精神として展開させ、時代に対する告発の先端をいったクラウスの精神的変貌の軌跡。主として、雑誌Fackelの諸評論や「人類最後の日々」を中心に考察。またクラウスは、ドイツ文化史上のユダヤの先達、ハイネの批評精神の衣鉢を継ぐものとして、ドイツ文学上、Kurnberger、Egon Friedell等、特殊な個性をもつユダヤ系作家の系譜に連なるものでもあることを指摘しようと試みる。 2)、及び3)のFreud Herglは更に継続課題として、次年度に続行。 本年度はこのヴィーンの作家たち課題に関連し、ホフマンスタール、「ナクソス島のアリアドネ」に関係する神バッカスの事蹟(神話、文学、美術)の研究で、かなりの成果を挙げたように思う。
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