本研究の所期の問題設定であった、第1に『東国歳時記。(以下『東歳』と略す)の著者洪錫謨の伝記的研究、第2に定本決定作業、第3に註釈的研究、第4に『東歳』を中心とした比較民俗学的研究などを主軸に展開した。以上の研究は独立になされるものではなく、無論有機的連関性を持つ。第1の伝記的研究は飛躍的に進展した。従来の専門家は一致して「未詳」としただけに、本研究によって、生年・本貫・科挙応試・官歴・学歴・知友関係・党派・著書など、さまざまな解明・発見があり、実証的な伝記的研究の糸口を切り開いたのみならず、本文の理解の増進に努めた。第2の問題設定である「定本」決定作業については、当該書の原本もしくは異本の発見が期待できない限り、校異作業を放棄せざるをえない。原行の本文には多くの誤字や意味不明な個所も散見され、校定作業は緊急な要件である。そこで方法として、まず引用書との対照であり、次に著者洪錫謨が典拠したであろう原典の発見と、その対校である。幸いにも、本研究の進行過程で、著者が確実に典拠したであろう二書の存在に気付くと同時に、それぞれの対校作業を加えた。結果的に、ほぼ本文の整定作業を終了できた。むろん引用書との比較を通して、引用文に文献学的検討を加えたのは当然である。本研究によって、朝鮮の歳時記の基本資料である『東歳』の最良なテキストを得られたと愚考する。第3の註釈的研究は、目下鋭意進展中であり、全体の3分の1ほど終了した。民俗学ばかりでなく、語学・歴史学・文学など主要な研究成果を網羅した、可能な限り詳細な註釈に腐心している。第4の比較民俗学的観点の導入だが、特に日本民俗学の業績を参照することで、その対比を通してかなりの類似する民俗事象に気付いた。日本民俗学への有力な提言が可能な程度に、新たな知見を得た。(それぞれの発表予定の専論を参照して頂きたい)
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