1.国際違法行為責任と対比される本研究課題は、その対象領域、「手続的義務」と「実体的義務」、責任の国家への帰属、過失責任と無過失責任の関連など検討を要する極めて多様で膨大な問題を抱えている。従って、単年度の研究としては、交付申請書で予定したように、国家への責任の帰属と厳格責任の導入の問題を中心に、国連国際法委員会におけるバクスターとバルボーザの各報告ならびにそれをめぐる討議状況のフォローに焦点をあわさざるを得なかった。これらの資料のフォローによって得られた成果は主に次の点である。 2.(1)特にバルボーザの条文草案に顕著であるが、causal responsibilityとして特徴づけられるこの責任の場合、国際違法行為の国家への帰属を帰責事由とする伝統的国家責任の枠組を越えて、「認識しうる危険」を有するそれ自体国際法で禁止されていない活動が国家の管轄(領域)内又は支配下で行われていることを当該国が知っておれば(推定を含む)責任が国家に帰属するという、いわば責任の「絶対的帰属」の原則が採用されており、しかも国家責任の場合と異なり因果関係が決定基準であって過失の有無は問題とされない。確かに被害者救済という点では見るべきものがあるが、越境損害につき国家の責任が現行の諸条約や実行を超えて大きく拡大してしまう危険もある。従って、以上の検討を踏まえ、伝統的国家責任における行為の国家への帰属、主権免除条約草案における国家の行為の範囲と対比させながら、この領域における国家への帰責の適正な範囲を確定する作業を引き続く緊急の検討課題とする。(2).損害賠償については、加害国と被害国の利益衡量又はコスト分担という考え方が採用されているが、バクスターの提案によってもまだ基準が極めて不明確だといわざるを得ない。国家の主観的判断を排する一定の客観基準が不可欠であり、バルボーザ提案をまって今後の検討課題とする。
|