本年度は利子率の期待(予想)形式を中心に、利子率の期間構造に関する分析を行なった。研究結果の概要は次のとおりであった。 1.所有期間利回りの期待値を得るために必要な国債(現物)の期待価格を求めることを目的とし、国債先物市場における価格形式のテストを行なった。依拠した分析の枠組みはAPT(裁定価格理論)で、国債の他に金と輸入大安の各先物市場のデータを用いて検定を行ない、「正常の逆ザヤ」と「順ザヤ」が存在しない、つまり現在の先物価格は将来の現物価格の期待値に等しいことが示された。 2.1.から算出される所有期間利回りの期待値を用いてテストすると、所有期間利回りの期待形成は合理的期待形式仮説の不偏性の条件を満足していた。なお、国債先物の場合、実際に存在する現物の多数の銘柄が受渡し決済に用いられ得るので、現物の期待価格を求めるのに際しては、銘柄を特定した上で、それと先物取引の対象である標準物とを関係づける変換係数を考慮に入れた。 3.2.で得られた結果を用いて次に利子率の期間構造に関する純粋期待仮説を単独にテストした。従来の分析の多くは、期待形式仮説として合理的期待形成仮説を用い、これと純粋期待仮説との結合仮説をテストしているが、本研究はこの点を改善した。残存期間が1.5年から10年までの割引債の利回りを用いると、純粋期待仮説は棄却され、リスク・プレミアムの存在を含意している。割引債のデータを用いたのは、期間構造理論が残存期間の利回りへの影響を分析するものであり、残存期間以外のクーポンなどの要因を一定にすることが望ましく、利付債のデータよりも好都合であるためである。
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