研究概要 |
カ-とバリネロによって開発された,第一原理に基づく電子状態の計算と分子動力学を結びつける方法を,遷移金属系にも適用できる形にすることがねらいであった。実際に分子動力学を実行するには到らなかったが,確かな糸口をつかむことができた。マルテンサイト変態については,電子状態の第一原理的計算からのアプロ-チと,現象論的アプロ-チの2つの方向から,研究を進めた。以下に具体的な成果を要約する。 (1)ポテンシャルに特別の対称性を仮定しないことが,分子動力学では重要である。このよすな一般のポテンシャルに対するKKR法(フルポテンャルKKR法)を効率良く実行するための手法を開発し,それが実際に高速で実行されることを示した。またそれを分子動力学と結びつける時に必要となる,ウィグナ-ガイツセルやボロノイセルを表現するための形状関数を決める方法等の開発を行なった。これを用いバンド計算を行なった結果より,もの10個程度の原子を単位胞に含む場合を想定して,分子動力学を実行したとすれば,1タイムスラップあたり1分程度のCPU時間が必要であると見積った。 (2)Cu中に析出したrFeで見いだされた,磁気的構造と結合した格子歪を念頭に,空間的変調を受けたfcc第一種反強磁性とそれと同時に,現れる格子の斜方歪との関係を,ランダウの現象論に基づいて議論した。得られた自由エネルギ汎関数を極小化する解として,磁気的周期が格子歪の周期と同じものと2倍になるものとが存在することを示した。 (3)FeーPd合金のPd30%は付近で見られるfccーfctーbcc遂次型マルテンサイト変態の微視的起源を明らかにする目的で,KKRーCPAーLSD法を用いた電子状態の計算をfccーbccのベイン変形の道筋に沿って行なった。その結果,Pd30%付近でfcc構造が不安定化すること,しかしfct構造は安定化されず,一次的にbcc構造に転移することを示した。
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