研究概要 |
本研究では、Norrish II型光反応の基本的な過程を解明するために、O-メチルアセトフェニン(OMAP)、5.8-ジメチルテトラロン(5.8-DMT)、2,4,6-トリメチルアセトフェニン(TMAP)、2,4,6-トリメチルベンツアルデヒド(TMBA)を主な対象に、時間分解ESR法を用いて、励起三重項状態と、メチル基の水素原子が移動して生成するジラジカル中間体のスピン分極ESRを種々の条件下で測定して、反応過程について明解な考察を進めることができた。 OMAPの励起三重項T_1状態は零磁場分裂定数とリン光寿命とからnπ*状態に帰属されるが、エタノールに少量の水を添加した溶媒中ではππ*に変わる。5.8-DMTでは、nπ*で、水の添加効果は殆どない。水素原子移動で生成するエノール三重項のスピン分極ESR信号は1M秒の間に徐々に強くなり、原子移動が比較的ゆっくり進行することを示す。スペクトルの1D1値は小さく、ジラジカル性を強くもっている。TMAPとTMBAのT_1状態は、D値とリン光寿命からππ*三重項である。これらのことを証左するために、芳香族カルボニル化合物のT_1状態に対する溶媒効果を5種類の物質について実験し、とくにプロトン溶媒の効果を考察した。フォトエノール生成の容易さは、T_1状態の性質と芳香環とカルボニル基の共平面性に強く依存している。ジラジカルのメチルビオロゲンによる捕捉実験で、観測CIDEPスペクトルから、エノール三重項が優れた電子供与体であることが示された。 関連する研究として、フリーシッフ塩基の分子内プロトン移動によって生成する三重項ケトアミンのスピン分極ESRが、また、1-アルキルピリジニルラジカル二量体の均等光開裂によって生成するラジカルのスピン分極ESRを、増感剤の添加効果を中心に詳しく実験、反応機構を確立することができた。
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