研究概要 |
HOMOからnLUMOへの-電子遷移に伴う励起電子配置から生ずるB_<3g>対称性の一重項と三重項状態のエネルギー差は、半経験的なPPP型のMO法を用いて評価すると、ジシクロベンゾ〔cd,gh〕ペンタレンでは0.092eV、ジシクロベンゾ〔ef,Rl〕ヘプタレンでは0.076eVと算出された。両状態間のエネルギー差が著しく小さいことは、電子遷移に関与する二つの分子軌道における原子軌道が、互いに異った領域に分布することによることが判明した。このように、二つの状態が接近している場合には、電子相関の効果を考慮することにより、結果として一重項の方が三重項よりも安定化し、フント則の破れが期待される。この視点に立ち、注目している励起一重項および三重項状態に対し、一電子、二電子、三電子励起配置による電子相関によってもたらされる安定化の寄与を摂動論を用いて評価すると、次の結果が得られた。電子間反撥の評価には又賀・西本近似を採用した。(i)一電子励起配置からの寄与により、相対的には一重項の方が0.004eV安定化する。(ii)スピン分極(SP)を起す二電子励起配置による寄与は、一重項を三重項よりも0.500eV安定化に導く。(iii)SP効果を除いた全ての二電子励起配置からの寄与は、三重項を一重項よりも0.142eV安定化に導く。(iv)三電子励起配置による寄与は、三重項を一重項よりも0.328eV(7.56Rcal/mol)低くなり、電子相関の効果によりフント則が敗れるという興味もある結論に至った。ジシクロベンゾ〔ef,Rl〕ヘプタレンについても解析の結果、注目している一重項と三重項状態の相対的安定度はフント則を満たさないことが判明した。今後引き続いて解明していく予定である。
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