研究概要 |
光学活性スルホキシドは、不斉合成反応において最も活用範用の広い基質のひとつであるが、従来は光学分割法によってのみ入手可能であり、より一般的な合成法の開発が強く望まれていた。本研究では、不斉金属触媒を用いるスルフィドの酸化反応の開発を目的に、不斉触媒の探索およびそれを用いる酸化反応を行なった。基質としては特に金属への配位が期待できるカルボニル基を有するβーケトスルフィドを選んだ。まず最初に、Sharpless試薬として知られる(+)-酒石酸ジエチルーテトライソプロポキシチタニウム系を不斉源とし、酸化剤としてtーブチルヒドロペルオキシドを用いβーケトスルフィド類の不斉酸化を行なったところ、70%ee程度の良い光学純度の(R)ーβーケトスルホキシドを得ることができた。スルフィドの置換基としては特にpートリル基が良い結果を与えることがわかった。この反応においては不斉源である(+)-酒石酸ジエチルは化学量論量以上必要であった。そこで触媒量のみで光学活性βーケトスルホキシドを合成するべく検討した結果、従来不斉還元反応に利用されていた(R,R)-2,3ー0ーイソプロピリデンー1,4ービス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DIOP)および2,2ービス(ジフェニルホスフィノ)ー1,1ービナフチル(BINAP)、さらにこの両者のリン原子をより酸化を受けにくいヒ素原子に置換して新たに合成した光学活性ビスアルシン化合物DIOASおよびBINASとルテニウムとの錯体を2%モル触媒として用い、酸化剤としてクメンヒドロペルオキシドを用いβーケトスルフィドの酸化を行なったところ、10%ee前後の不斉収率ではあったが光学活性βーケトスルホキシドを合成することができた。この反応では明きらかに不斉増殖が行なわれており、触媒量の不斉源を用いる酸化反応としては注目に値する。以上のように本研究においては、合成中間体として重要な光学活性βーケトスルホキシドを不斉酸化反応によって合成することができ、また不斉増殖的酸化反応の可能性を示唆することができた。
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