研究概要 |
本研究者らは、既に軸性キラリティをもつ不斉二座ホスフィン配位子、2,2'ービス(ジフェニルホスフィノ)ー1,1'ービナフチル(BINAPと略称)のRh(I)錯体が、αーアシルアミノアクリル酸類の不斉水素化やアリルアミン類の不斉1,3ー水素移動による光学活性エナミンへの異性化反応の極めて優れた触媒であることを見出している。さらに、単核のBINAP-Ru(II)ージカルボキシラート錯体を合成し、不斉水素化の触媒として優れていることを見い出している。本研究者らは、今回ベンゼンールテニウム(II)錯体、[RuX_2(C_6H_6)]_2、とBINAPを反応させることにより、高収率でカチオン性BINAP-Ru(II)錯体、[RuX(C_6H_6)(BINAP)]×(X=Cl、Br、I)、を初めて合成単離することに成功した。ベンゼンがη^6ー配位様式でRuに配位することにより、2つのホスフィンは非等価になることを単結晶X線構造解析により明らかにした。得られた錯体は、ベンゼン配位子が、触媒反応条件下容易に解離するので、前駆体として求められる条件を満たすことが判った。たとえば、3ーオキソブタン酸メチルの不斉水素化反応を水素100気圧の条件でおこなうと、99%の光学収率で3ーヒドロキシブタン酸メチルが定量的に得られた。N,Nージメチルアミノアセトンを同様の条件で水素化をおこない、99%の光学収率で対応するアミノアルコールが得られた。さらに、α、βー不飽和カルボン酸の不斉水素の触媒となり、抗炎症剤である(S)ーナプロキセンを96%の光学収率で得ることができることを見出した。また、アリルアルコールの一種であるゲラニオールを不斉水素化すると96%の光学収率が得られた。いずれの反応も1分子の錯体が、数百から数千の基質の水素化を触媒している。このように、本研究者らは、光学活性化合物の合成に実際的な意味をもたせる触媒を創出した。今後、広い範囲の応用が期待できる。
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