筆者は等速電気泳動法の分離過程及び定常状態をシミュレートするソフトウエアを開発し、多くの試料についてその妥当性について検討してきた。その結果、分離最適条件(特にpH)の予測にシミュレーションの手法が精度良く適用できる事、試料中に成分数が多い場合には、一種類のpH条件のみで全分離が可能である事は殆どないことが明らかになった。多成分試料を分析する場合、既存の等速電気泳動分析装置では一種類の電解液しか使用できないため、電解液を交換後、試料を再度注入して分析しなおす必要があった。 この点を改良するため、今回の補助により現有の等速電気泳動装置(島津製作所、IP-1B)を改良して5種の異なる電解液系で同一試料の繰り返し分析が可能な等速電気泳動装置を製作した。装置作製にあたり、必要な部品およびデータ取り込みと制御に使用するマイクロコンピュータ等を購入した(別紙)。 試料分離に最も大きな影響を与えるのはリーディング電解液のpHで、その調節にはpHに応じて適当な緩衝剤が使用される。この電解液の迅速な交換を実現するため、本研究ではリーディング電解液槽には単に導電性を持たせる意味からNaCl水溶液を満たし交換は行わず、試料検出器とリーディング電解液槽を接続する細管内の電解液を交換した。 この際分離を妨害するカウンターイオン(アニオン分析の場合はNa)が対電極に向かって泳動するので、微量のリーディング液をゆっくりと圧送してこれを系外に排出した。この方式により試料検出後、高電圧をかけたまま試料ゾーンを試料注入位置付近にまで押戻し電解液を交換して再分析が可能になった。本装置を使用して多くの実試料を分析したが、回収率、再現性ともに良好であった。今回の研究成果についてはJ.CHROMATOGR.に近々投稿の予定である。
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