研究概要 |
II,IV,V価のMoは、それぞれ金属間結合をもつ安定な六核、三核、複核錯体を与える。これらのMoクラスター錯体の光化学的挙動につき新たな知見を得た。 1.MoII錯体、〔Mo_6Cl_<14>〕2-。先に我々は4種の溶媒中でのデータをもとに、本錯体の発光寿命が室温で著しい溶媒効果(3.5〜180μs)を示すことを報告した。今回新たに4種の溶媒(C_6H_5CN、n-C_3H_7CN、DMA、DMSO)中での測定結果を得、次の結論に達した。すなわち、光により配位Cl-の一部が過渡的にはずれる過程があり、その寄与が溶媒により異なることが、観測される溶媒効果の本質である。本結論は、有機溶媒中では発光寿命が溶媒のドナー性が大きいほと短くなる傾向があること、10〜150K程度の凍結状態では寿命に溶媒による違いがみられず結晶固体の寿命ともほぼ一致することなどから裏付けられた。塩酸酸性水溶液中での挙動は、有機溶媒中での挙動と対応しない点が多く、有機溶媒中とは異なる機構が働いているようである。この点についてはさらに詳しい物理化学的測定手段による解明が必要である。 2.MoIV、MoV錯体、〔Mo_3IVO_4(H_2O)_9〕4+および〔Mo_2VO_4(H_2O)_6〕2+。これらは発光も示さず、光化学的にも安定と考えられてきた。実際、室温での可視光、高圧水銀灯(365mm)照射では、塩酸酸性、過塩基酸酸性水溶液とも可視紫外吸収スペクトルに変化はみられなかった。しかし、低圧水銀灯照射(254mm)では、塩酸酸性水溶液ではO_2共存下、過塩素酸酸性水溶液では脱気下でも、いずれの錯体も1時間程度でMoVIに酸化された。また、過塩素酸の濃度(0.1〜3.0M)が高いほど分解速度は早かった。以上の事実は、両クラスター錯体とも紫外光照射により活性種(多分、金属間結合の切断により生ずる単核種)が生じ、これがO_2や過塩素酸イオンにより酸化されることを示している。過塩素酸イオンが光化学反応において酸化剤として働く例としても珍しい結果である。
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