研究概要 |
3価のSbは、立体化学的に活性な孤立電子対を持っていることから、Sb-O系を対象として高温高圧実験を行った。実験には26mmφのブリッジマンアンビルを用いて、圧力12万気圧、温度900℃までの領域で相関系を明らかにした。 本研究により、Sb_2O_3の900℃、12万気圧までのPT相図を得ることができた。従来は、W.B.White et al.(1967)による水熱法で測定した低圧(〜2000気圧)のデータが報告されているのみであった。Sb_2O_3には低温相の立方晶Sb_2O_3(I相)と高温相の斜方晶Sb_2O_3(II相)の2つが知られていたが、本研究により新しい第3の相(III相)と、おそらく組成が異なると考えられる新化合物A、Bを合成することができた。化合物AはII相を出発原料として8-9万気圧、800-900℃の領域で生成した。化合物BはI相を出発原料として10万気圧以上の300-400℃の領域で生成し、現在までの所II相からの生成は見られていない。化合物Aは試料室にBN絶縁体を入れてない時にしか生成しておらず、グラファイトヒーターが直接試料と接触しているので、還元が起こっている可能性がある。 新しいIII相は、温度550℃以上、圧力8万気圧以上で安定であった。それぞれについて結晶解析を行い、III相を斜方晶系として仮定して格子定数を求めたところa=10.765,b=9.737,c=9.063( )として、化合物Aも同様にa=14.570,b=7.320,c=12.134( )として、さらに化合物Bは正方晶、a=9.48,c=10.30( )としてそれぞれの全てのX線粉末回折データに指数づけをすることができた。Aについては単結晶を得ることができたので、現在構造解析を進めつつあり、成功すれば高温高圧下の孤立電子対の挙動を定量的に解明することが期待できる。なお、比較のため同形のAs_2O_3の相平衡実験も行ったところ、約110℃に圧力軸に平行な低温相、高温相の相境界線が高圧領域まで延びていることがわかり、特異的挙動を示した。
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