研究概要 |
遷移金属錯体における混合原子価状態の起源およびそれに起因する諸物性を調べる目的で、ハロゲン架橋Pt混合原子価錯体〔Pt^<II>(en)_2〕〔Pt^<IV>X_2(en)_2〕Y_4(X=Cl,Br,I;Y=(HSO_4)_4,(SO_4)_2)および三次元混合原子価錯体Cs_2Au^IAu^<III>X_6(X=Cl,Br,I)を合成し、混合原子価状態に基づく諸物性を調べた。 〔Pt^<II>(en)_2〕〔Pt^<IV>X_2(en)_2〕Y_4については、ハロゲンを介したPt間の電荷移動相互作用の他に、配位子・カウンターイオン間の水素結合が重要な役割を演じていることがわかった。即ち、可視領域に現われるPt^<II>→Pt^<IV>電荷移動吸収帯(CT帯)の温度変化を調べたところ、配位子・カウンターイオン間の水素結合が強い系(HSO_4塩)では温度上昇に伴なってブルーシフトするが水素結合が弱い系(SO_4塩)ではレッドシフトすることがわかった。ブルーシフトについては、温度上昇に伴なって水素結合が弱められることで解釈され、レッドシフトについては、温度上昇に伴なってハロゲンを介したPt^<II>,Pt^<IV>間の価数揺動が増大することで解釈された。また、水素結合が弱い系(SO_4塩)では、価数揺動の効果が強いため原子価交替の不整合が起りやすく、この不整合(ソリトン、ポーラロン)に起因する弱い吸収帯がCT帯の低エネルギー側に観測された。この吸収帯は光誘起効果を示すことがわかった。 三次元混合原子価錯体Cs_2Au_2X_6(X=Cl,Br,I)については、光電子分光(XPS)、Auxスバウアー分光法により、Auの混合原子価状態を調べた。その結果、電荷移動相互作用は二次元的(a-b面内)であり、Cl〈Br〈Iの順に大きくなっていることがわかった。また、室温で立方晶の結晶を得ることに成功したが、XPSおよびメスバウアー分光の解析より、Au原子価は均一であり、希なAu^<II>状態が実現しているものと解釈された。
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