研究概要 |
これまでに研究された多くのイオウ原子を含むdmit配位子(C_3S_5^<2->)を有する平面性のニッケル,パラジウムおよび白金錯体とは異なり、本研究では、かさ高いトリス(dmit)金属アニオン錯体の新しい電導体を検討した。〔V(dmit)_3〕^<2->アニオンが低電位(+0.15V vs.SCE)で可逆的に1電子酸化されて安定なアニオンが生成することを見出した。〔NBU^n_4〕_2〔V(dmit)_3〕とさまざまな酸化剤と反応させて多くの導電性錯体を得た。その代表的なものは、Fe〔V(dmit)_3〕3H_2O(1__〜)、Co〔V(dmit)_3〕・3H_2O(2__〜)、〔フェリセニウム〕〔V(dmit)_3〕(3__〜)、〔ニッケロセニウム〕〔V(dmit)_3〕(4__〜)、〔TTF〕_2〔V(dmit)_3〕(TTF=テトラチアフルバレン)(5__〜)および〔N-メチルフェナジニウム〕_2〔V(dmit)_3〕(6__〜)である。これらは半導体であり、粉末加圧成型試料で測定した電導度は25℃で1×(10^<-5>〜10^<-2>)S cm^<-1>である。錯体6は、その電導度が2.8X10^<-5>S cm^<-1>であり、X線結晶解析を行い、〔V(dmit)_3〕^-アニオンがイオウーイオウ相互作用により二次元的層状の電導経路を有することを明らかにした。また、5__〜はさらに高い導電性(1.0×10^<-2>S cm^<-1>)を示し、〔V(dmit)_3〕^-およびTTF°/TTF^+・がイオウ原子を介して多次元的電導経路を形成しているものと思われる。一方、〔TTF〕2.5〔V(mnt)_3〕・0.5CH_2Cl CH_2Cl(mnt=1,2ージシアノエチレンー1,2ージチオレート)の結晶解析を行うことにより、TTF°/TTF^+・のみからなるカラムの電導経路を明らかにし、この錯体の電導度が1.7×10^<-4>S cm^<-1>であることは5の多次元的電導の可能性を示唆している。 金属錯体膜をつくり、その導電性を検討する段階までには到っていないが、かさ高い〔V(dmit)_3〕^-の分子間相互作用はその構造上興味深い。
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