研究概要 |
日本産淡水カジカ属6種の生活史進化の過程とその生態的要因を明らかにするために、生化学的遺伝質に基づく遺伝的類縁関係の推定と繁殖・生活史形質についての種間・種個体群内での比較研究を行い、以下のことが解明された。1,アイソザイム遺伝子をマ-カ-にして集団遺伝学的解析を行った結果、日本産淡水カジカ類はシベリア由来群(ハナカジカ、エゾハナカジカ、カジカ)と朝鮮半島由来群(カンキョウカジカ、ウツセミカジカ)の2類縁群に大別された。2,淡水カジカ類の生活史は降河回遊型、両側回遊型、湖沼陸封型・河川陸封型の順に淡水環境により適応する方向で進化したとみなされたが、このうち両側回遊生活史から湖沼または河川陸封生活史の進化が各由来群内で独立して起こった(生活史の平行進化)と推測された。3,集団間の遺伝的分化に関する結果から、両側回遊魚エゾハナカジカから河川陸封魚ハナカジカへの種分化は、北海道南部と中部・東部で異時的に独立して起こったことが、集団の遺伝的類縁関係の結界から示唆された。この種分化は二つ以上の場所で河川陸封と相前後して起こり、しかも各河川集団は形態的・生態的に極めて類似した形質を有することから、従来の種分化と異なるユニ-クさをもち、多所的・平行的種分化と呼んで新たに提唱した。4,両側回遊性の生活環をもつ同一種の河川個体群の中にも生活史変異が存在することが明らかになった。すなわち、河川の下流から上流に沿ったカンキョウカジカの生息場所集団間には、下流では小型・若齢で性成熟するのに対して、上流に向かうにつれてより大型・高齢化して成熟するという変異が認められた。その傾斜的変異の度合は、雌雄間で異なり、雄でより顕著であった。このような生活史変異は、流程に沿った生息環境の異質性に起因するものであり、またその変異の度合が雄でより著しいのは、本種の一夫多妻的繁殖システムにおける大型雄ほどより多くの雌と番うという繁殖戦略と関係すると推測された。
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