研究概要 |
1.分類学的成果:日本産のシマトビケラ属のうち,唯一成虫が不詳であったシロズシマトビケラの雌雄成虫が明らかになった。その雄成虫の生殖器の形態は,本属のいずれの種とも大きく異なり,系統関係の解析に重要な位置を占める。台湾,朝鮮半島,大陸東岸のシマトビケラ亜科について,文献と入手した標本の検討を行ない,未記範種,再記載,シノニム(投稿中),種群関係を明らかにした。 2.生活環と移入定着についての研究:大和川支流の滝畑ダム下流で2年間の調査を行なった。ウルマ-シマトビケラ,コガタシマトビケラの2種は,いずれも越冬世代と非越冬世代の年2化型の生活環だった。人工基盤への定着の野外実験では,3齢以下の若齢の加入の多いこと,夏期の定着率が高いこと,新世代の加入期に加入・定着率の上昇することが明らかになった。河川水温と温度ー発育関係(発育零点・公育速度)から,各齢の加入数を推定する方法を開発し,先の2種類について,世代毎の生命表を作成した。秋の増水もあったが,世代期間の長い越冬世代のほうが,3齢以降の生残率の低いことが判明した。 3.幼虫の営巣場所についての研究:ウルマ-シマトビケラ,オオヤマシマトビケラ,コガタシマトビケラの3種の共存する2河川で,自然石上の営巣位置を,季節,密度の異なる状態で比較した。それぞれの営巣位置は,ウルマ-が上面に,オオヤマとコガタが下面に多く,その傾向は,密度や季節,それに発育段階が異なっても,変化はなかった。各々の種の石礫上の営巣位置は,種内・種間関係によって可塑的に変化するものではなく,行動・生理的に各種に固定的要素が大と判断できる。また,人工基盤上面の営巣位置(大部分がウルマ-シマトビケラ)の解析では,低密度では集中的に分布することが多く,定着幼虫が増えると,ランダムに分布する傾向があった。
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