研究概要 |
本研究は,日本産のミズワラビについて,地理的変異の実態を明らかにしようとしてなされたものである。具体的には次の4点に焦点を定めて,研究がすすめられた。(1)日本産のミズワラビには,形態的にどの程度の地理的変異が見られるか。(2)地理的変異の適応的意義は何か。(3)地理的変異をもたらした内部要因(種特性)は何か。(4)地理的変異はどの程度遺伝的分化と結びついているのか。 (1)については,沖縄県から千葉県に至る太平洋沿岸地域の39集団100亜集団の葉形を調査した結果,南から北にかけて地理的クラインが存在することが判明した。すなわち,ミズワラビは北方のものほど葉は小型となり,切れ込みは少くなる。(2)については,北方におけるミズワラビの小型化・単純化は,北方の水稲耕作様形と関連していることがわかった。すなわち,北方ほどミズワラビの生育可能な期間(イネの刈り取りから降霜までの期間)は短くなる。このために実葉形式に必要な栄養生長量を少くする遺伝的変異が選択されて,小型化・単純化した葉形をもつ北方型が生じたと考えられる。(3)については,アロザイム解析に基づいて自配受精率の見積りを行なったところ,千葉県の集団で0.9に近い値が得られた。自配受精はホモ接合体を集団にすみやかに固定させることができる。これらのことから,地理的変異の成立をすすめた要因として,ミズワラビの高度の自殖と一年生雑草という特性を挙げることができる。(4)については,沖縄県から千葉県にかけて22集団のアロザイム解析を行なったところ,沖縄本島を境にアロザイム組成が大きく異なることが判明した。本島以南は同質倍数体起源を示唆俊るアロザイム組成を示し,本島以北は異質倍数体起源を示唆するアロザイム組成を示す。従って,日本のミズワラビは遺伝学的には2群に分けうる。そのうちの1群が上記の北方型に相当するものであろう。
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