研究概要 |
テトラヒメナなどの繊毛虫は2Cで生殖核である小核と、45Cで栄養核である大核を持つ。受精核より大核に分化する核ではIgG遺伝子で見られるような遺伝子組み換えによる遺伝子再編成が起こる。また、核分化には細胞質因子が深く関与していることが明らかにされている。テトラヒメナでは、接合過程の受精時の配偶核の挙動が中間繊維蛋白質(14-nm繊維形成蛋白質)によって制御されていることが示されている(Numata et al.Nature,1985,314:192-194)。テトラヒメナ中間繊維蛋白質の性状や機能をさらに明らかにし、その遺伝子が大核分化過程でどのような遺伝子再編成を行なうのかを検討するために、大核cDNAライブラリ-より中間繊維蛋白質遺伝子をクロ-ニングし、全塩基配列を決定した。その結果、ほ乳類の中間繊維蛋白質ビメンチンなどと部分的にホモロジ-があり、また、全配列にわたってブタのクエン酸合成酵素と51.5%のホモロジ-があることが判った。この蛋白質がクエン酸合成酵素の機能ドメインを保持していたので、酵素活性の有無を検討した結果、クエン酸合成酵素活性を持ち、さらにミトコンドリアにも局在することが蛍光抗体法によって示された。従って、テトラヒメナ中間繊維蛋白質は細胞質では細胞骨格として受精時の配偶核の動きを制御し、ミトコンドリアではTCA回路の酵素として機能していると考えられる。この現象は1つの遺伝子がコ-ドする蛋白質が全く異なった2つの機能を持つことから、gene sharingと呼ばれ、代表的な例としてレンズのクリスタリンが知られている。一方、小核の分離法の改良の結果、当初の目的であった小核の遺伝子ライブラリ-の確立に成功した。現在はテトラヒメナ中間繊維蛋白質の小核遺伝子のクロ-ニングとシ-クエンシングを試みており、大核の遺伝子と小核の遺伝子の比較検討によって遺伝子再構成の実態に迫ろうとしている。
|