研究概要 |
ブタ精漿から得られた鞭毛運動を阻害する哺乳動物精漿蛋白(以下精漿蛋白と略す)は、SDSPAGE等の結果から、14,000、16,000、18,000の分子量をもつ三つのサブユニットから成る蛋白であることが分かった。この精漿蛋白は、哺乳類のみならず魚類や棘皮動物などの細胞膜除去した精子鞭毛の運動を一般的に阻害した。そこでウニ精子モデルを用いて鞭毛運動調節機構に関する詳しい解析を行なった。精漿蛋白の鞭毛屈曲運動に対する阻害効果は振幅において強く現われ、やがて不規則な振動になり停止する。弱いトリプシン処理をほどこした精子モデルでは、ダブレット微小管の滑り出しは抑えるが、鞭毛先端での微小管のほぐれは抑えず、屈曲の弛緩も起こることが分かった。ATPase活性は部分的に抑えられた。これらの結果から、鞭毛軸糸内の粘弾性は鞭毛運動の振幅決定に深く関係しているが精漿蛋白は微小管と微小管もしくは腕との間に作用しこれを高めていると考えられる。また精漿蛋白存在下できわめて遅い屈曲の伝播がみられたが、そのような場合にも一定に保たれる屈曲のパラメ-タがあり、運動調節を理解する上での重要な知見を得た。 精漿蛋白の効果を考える上での一つのモデルとして、ポリアミノ酸の作用を同様な方法を用いて調べた。まず塩基性ポリアミノ酸に運動阻害作用が顕著であることが分かったので、以後ポリリジンを用いた。阻害効果は、リジンでは見られず、分子量が大きいと(15,000以上)顕著であり、また鞭毛屈曲運動の振幅において著しいことが分かった。またATPase活性はあまり抑えず、ATP存在下ではポリリジンで処理しても屈曲は弛緩する。これらの結果は、ポリリジンも精漿蛋白と同様にダブレット相互のいずれに対する粘弾性抵抗として働いている事を示唆している。 またタコノマクラ卵を用いて、細胞分裂開始前に精漿蛋白を顕微注射したところ、分裂期に至るまでの過程に対する阻害作用が観察された。
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