淡水魚カワムツZaccotemminckiの黒色素胞は光感受性をもつ。この光反応の誘起には520nm波長光が最も有効であった。このことは光受容色素としてロドプシン様物質の関与を示唆する(Naoraetal.1988)。本実験では、カワムツ黒色素胞にロドプシン様色素が存在するかを生化学的、免疫化学的に検討した。1.レチナールの検出:黒色素胞が顕著な暗反応を示すカワムツ12個体から、黒帯より背側の鱗をすべて摘出し、試料とした。Groenendijk等(1980)の方法により、膜分画、メラノソーム分画を作製し、高速液体クロマトグラフィにより、レチナールの検出を試みた。その結果では、レチナール様物質は確認できなかった。2.ロドブシン再生実験:膜分画にハーシスレチナールを加え、ロドプシンの再生がみられるかを、差スペクトル測定により検討した。この実験からも、ロドブシン様物質は検出されなかった。3.免疫組織学的手法による検出:本実験では、ロドプシン抗体の作製が遅れたため、ニワトリ・アイオドプシンモノクロン抗体を用い、免疫パーオキシターゼ法による免疫染色を行った。本抗体は、当然のことながら、ニワトリ錐体外節部を認識したが、本処理では、カワムツ網膜視細胞、黒色素胞はいずれも染色されなかった。この結果は、カワムツ視細胞の光受容色素はアイオドプシンではないこと。黒色素胞もアイオドプシンを含まないことを示す。本年度の実験からはカワムツ黒色素胞にロドプシン様物質の存在を実証することは出来なかった。今後の課題:1.分析に用いる試料の量を増やして再実験.2.試料中にβカロチンが含まれ(黄色素胞由来と思われる)、これがレチナールのピークを隠している可能性がある。試料中よりβカロチン除去法の検討。3.ロドプシンモノクロン抗体を用いての免疫組織学的実験.視細胞とも黒色素胞が同一光受容色素を利用している可能性は高い。本実験が最も急務な課題である。
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