研究概要 |
本研究課題は,当初,研究代表者中内光昭(現高知大学長)・研究分担者川村和夫でスタ-トした。実験材料は主にアラレボヤを用い,結紮実験と組織学的手法を用いて芽体の形態形成中心の決定機構を探った。その結果の一部はすでに一編の論文として発表した。平成元年10月より研究代表者となった川村は,ミサキマメイタボヤを用いて,形態形成中心が消化管原基にあること,そこでは全能性幹細胞(ヘモブラスト)が上皮に転換することで,多数の未分化細胞が補給されていることを明らかにした。形態形成中心は,周りの上皮に比べ細胞周期時間が著しく短くなり,約12.5時間で回転していることをオ-トラジオグラフィ-によって示した。TCー14はミサキマメイタボヤで最初に単離・精製・構造決定に成功した,分子量14kダルトンのカルシウム依存性ガラクト-ス認識レクチンである。TCー14はヘモブラストに親和性をもち,抗TCー14ポリクロ-ナル抗体は出芽特異的に出現する細胞体マトリックス(ECM)と反応した。また,その抗体はヘモブラストの上皮への凝集を阻害した。TCー14の標的分子は,20kDaのポリペプチドをサブユニットとする64kDa糖蛋白(GPー64)であることが判明し,GPー64の精製にも成功した。TCー14は,in vitroでヘモブラストに対し増殖抑制効果を示したのに対し,GPー64は逆に著しい増殖促進効果を示した。これらの結果より,TCー14とGPー64の分子間相互作用が形態形成中心における全能性幹細胞の機能発現に深く関わっていることが示唆された。また,これらの蛋白質が形態形成中心で分泌(脱顆粒)されるとき,非ペプチド性生理活性因子としてプロスタグランディンやポリアミンが役割を果たしていることが分かった。これらの因子の生合成は出芽の際に促進され,それを抑制するとヘモブラストの行動に異常を生じた。すなわち,ホヤ芽体の形態形成中心の確立は,脱顆粒の時間的空間的制御としての局面を持つことが判明した。
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